診療室から Vol.58 口から見える病気
歯周病、糖尿病、骨粗鬆症は生活の改善で予防が
歯磨きができ、口の中が良好な人に
突然、歯はぐらぐら、歯肉からは出血


 テレビジョンや雑誌などで、歯磨きの大切さ、生涯、自分の歯で食べることの重要さが多く紹介されています。これが世間に浸透してきたためでしょうか、最近、歯科医院に来られる人を見ていますと、「虫歯で歯が痛い」という患者さんは少なくなってきています。
 私は地方の小さな町で、夫と医院を始めて20年になります。日々の診療の中から、私たちは、地域の患者さんとともに年を重ねていることを実感しています。
 20年前のこの町は、都会に比べると口腔(こうくう)についての関心が低かったように思います。お口を診せてもらっても、何から手をつけたらいいのかと迷うくらいに、トラブルだらけの患者さんがたくさんいました。
 その後、古くからの患者さんの虫歯の治療はひと段落し、虫歯の悩みが歯周病への関心に変わってきました。そして近年は、長年の歯科衛生士の方々の熱心な指導や努力が功をなし、歯周病も落ち着きました。
 さらにここ数年は、3ヵ月から6ヵ月おきに呼び掛けている定期健診も、きちんと来院してくださる患者さんがとても増え、皆さんの、お口の中の関心が高まっていることを感じます。もちろん、きちんと検診に来られる患者さんのお口の中の清掃状態は良好な方が多いです。
 そんな、自宅での歯磨きがきちんとでき、きれいなお口を保っている患者さんの中に時々、ある日突然、歯がぐらぐらしたり、歯肉から出血したりする方を見かけることがあります。それも1本ではなく複数……。これは、きれいに治療を施した歯や、高価なインプラントにも起こることがあります。その原因は、歯(し)槽膿漏(そうのうろう)です。


定期健診も受け、良好な人に歯周病?
その原因の一つは、糖尿病と骨粗鬆症


 歯槽膿漏は歯周病といい、歯肉炎と歯周炎に大別します。歯肉炎は炎症が歯肉に限局したものですが、歯周炎は炎症が、歯肉から歯槽骨(顎(あご)の骨)まで及んだものをいいます。
 歯周病の主な原因は細菌感染です。歯(し)垢(こう)や歯石が歯肉の内側(歯周ポケット)に長く留まることにより歯肉が炎症を起こします。歯肉炎はその炎症が歯肉の中だけに起きている現象です。
 一方、歯周炎は炎症が歯肉から歯の周りの組織である、骨にまで炎症が及んだものです、歯槽骨はかなり長い間、ゆっくりと溶けていきます。それも痛みはなく進行していきます。歯肉の腫(は)れや痛み、歯の揺れを感じる時は、かなりの重症であると思ってください。
 では、お口の中がきれいで、定期健診もきちんと受け、歯石も定期的に取っている人が、どうして歯が揺れ始めるなどの歯周病の症状が出るのでしょうか? 原因は一つではありませんが、多く見られるのは、生活習慣病である「糖尿病」「骨(こつ)粗(そ)鬆症(しょうしょう)」を持っている人です。
 これも、食生活が全く無関係とは言えないでしょう。このように、食生活というのは、人間の身体だけではなく、精神にも影響するということを心に留めておいてほしいものです。


糖尿病患者の多くは重度の歯周病に
歯周病は糖尿病を悪化させる働きが


 糖尿病とは、血液中の糖分をエネルギーにかえるインシュリンの働きが低下し、血糖値が高くなる病気です。糖尿病になると、全身の倦怠感(けんたいかん)、喉(のど)の渇(かわ)き、頻尿、傷の治りが遅いなどの症状が出てきます。
 糖尿病がある人は必ずといっていいくらい、歯周病に罹(かか)っていますし、歯周病が重度であることが多いです。また、反対に歯周病には糖尿病を悪化させる働きがあります。
 糖尿病に罹っている人は、「感染」に弱いため、日常の歯磨きの磨き残しや、正しくない歯ブラシの使用による歯(は)茎(ぐき)のわずかな傷により、健常人では免疫力でのり切ることができる外敵が、そのまま「炎症」という形……、口の中では歯周病という形になって表れます。
 また、糖尿病の薬を服用している人に多いのが、歯肉の増殖です。歯肉の増殖とは歯肉が多くなることですが、歯肉が多くなることにより、歯周ポケットが深くなってしまうのです。
 歯周ポケットが深くなると、深い分、プラークなど汚れやバイ菌をため込みやすくなります。歯周ポケットの深さは通常1〜2oですが、3〜4oあると歯周病と判断します。糖尿病の人は歯茎の増殖により、5〜10oという人を見受けます。
 日常の臨床の中で、糖尿病の人のお口の中は、一目見ただけで、糖尿病だと判るお口です。それくらい歯周病が悪化している人が多いのです。糖尿病と歯周病との因果関係はすべてが明らかにはなっていませんが、糖尿病が改善すると歯周病が良くなり、歯周病をコントロールすると、血糖が改善するという報告があります。
 骨粗鬆症はご存じのように、骨の密度が減り、中がスカスカになった結果、骨がもろくなって骨折しやすくなる病気です。日本では約1000万人の患者がいるといわれ、高齢者に多く、特に、55歳以上の閉経後の女性に多いといわれています。
 骨粗鬆症に罹ると、全身の骨がスカスカになり弱くなります。全身に起こるということは、顎の骨(歯槽骨)にも見られ、顎の骨もスカスカになり、歯周病の特徴である(骨吸収)が起こります。骨粗鬆症の人は歯周病が重症化しますし、歯周病の進行もとても早くなります。
 今は、骨粗鬆症のためのとても効果がある治療薬が普及しています。服用している人も多く見られ、その人たちの歯周病は安定しているように思われます。
 しかし、骨粗鬆症の薬を服用している人にも困ったことも起こります。それは、いざとなった時に、抜歯するのが難しいのです。服用者全員ではありませんが、抜歯の後の傷が治りにくいという報告があります。また、歯が1本もない総入れ歯の人の場合は、顎の骨の形が変わりやすいため、入れ歯がすぐに合わなくなります。
 糖尿病にしても、骨粗鬆症にしても、罹(り)患(かん)しても良い薬ができ、コントロールしながら日常生活をおくることは可能です。しかし、糖尿病、骨粗鬆症、歯周病は生活習慣病です。日々の生活を見直すことで、予防ができます。
 食事の見直しとしては、十分なカルシウムを摂取する。野菜をたっぷり摂(と)る。そして、ゆっくりと、よく噛(か)んで食べることです。最低でも30回は噛んでください。
 適度な運動は、心肺機能を高め、血液の循環を良くし、骨に適度な刺激をあたえます。その結果、足腰が強くなり骨減少や老化を予防します。また、害のない程度の適度な日光浴はビタミンDを作ります。そのほかに注意することは、禁煙、ストレスをためないことです。規則正しい生活を心がけ、十分な睡眠を取るようにしましょう。
 一にバランスよく「食べ」、二に「働き・運動」、三に「くつろぐ」。そして、一日1回(一日の終わりに)は、しっかりした歯磨きです。