診療室から Vol.56 肝炎
「沈黙の臓器」といわれる肝臓 B型、C型肝炎患者は300万人
既に肝炎ウイルスに感染していても
無自覚症状のため、知らない人が多い


 数年前、全国各地でB型肝炎の訴訟があり、大きな話題になったのを覚えている方も多いと思います。B型、C型肝炎ウイルス感染者の救済のための特別措置法は平成24年1月13日から施行されました。現在は、和解などが成立した患者さんに対しては、給付金が支給されています。また医療費の補助も行なわれています。そこで今回は「肝炎」について記します。
 肝臓の働きは、腸から吸収した種々の栄養分を身体がすぐに使える栄養分に変えたり、保存する栄養分に変え、肝臓に蓄えられます。その後、身体から廻ってきた不要物を分解して腸管に送って大便や、また尿として体外に排出する化学工場の役割を果たしています。その化学工場の機能、能力を落とすウイルスが肝炎ウイルスです。
 日本におけるB型、C型肝炎の患者は300万人といわれています。肝臓は、ご存知のように「沈黙の臓器」とよばれ、自覚症状がなかなか出ないために、自分が感染していることを知らない人がたくさんいます。
 肝臓は、ウイルスに感染すると、全身の倦怠(けんたい)感、皮膚掻痒(そうよう)感、易出血、黄疸(おうだん)(皮膚が黄色くなる)、褐色尿などの症状が出ます。しかし、これらの症状が認められた時は、既に肝硬変が進行していることが多くあります。
 近年、肝炎を起こすウイルスは、AやB、C型のほかにたくさん見つかっており、A、B、C、D、E、Gなどと、次々と命名されています。その中でも、日本人の多くが感染しているウイルスは、B型とC型が主です。


C型肝炎患者の6〜7割が慢性化し
その内の3割に肝硬変、肝癌が発症


 A型は、口から入って、一過性の症状でおさまることが多いタイプです。ウイルスが糞便(ふんべん)中に排出されるため、古くは、井戸水、下水の不備な河川領域の魚貝類や野菜を生食することで拡がりました。しかしこの型は、肝硬変や肝癌(がん)などの大きな問題にはならず、自然治癒を待ちます。
 これに対し、B型、C型はどのようにして感染するのかというと、感染している人の血液や体液が傷口に触れて、そこから体内にウイルスが侵入します。ちなみに、B型は、わずか1滴の血液で数万人が感染可能ともいわれているほど感染力の強いウイルスです。
 昔は注射針の消毒不足、輸血、血液製剤、母子感染、針刺し事故、ひげ剃(そ)りの使い廻しなどが感染の主な原因でしたが、これは色々な措置がとられているために、主原因でなくなりました。最近は、ピアスの穴開け、アイラインの入れ墨などの、消毒不十分な針の使い廻しが問題になっています。また、性行為による若年層の感染拡大も問題視されてきています。
 B型肝炎については、現在は、輸血や血液製剤では感染を未然に防ぐための対策がとられています。また、医療上の事故に対しても、医学生を含め、医療従事者へのワクチン接種が行なわれており、現在では稀(まれ)にしか起きておりません。出産時の垂直感染(母子感染)は、1980年代後半から対策が講じられていますので激減しています。
 C型肝炎については、昔は、A型でもB型でもない「non A-nonB」といわれた時期が長くありました。B型よりは感染力が弱いので、母子感染や性行為の感染は稀であるといわれています。過去には、注射針、輸血、血液製剤が主な原因でしたが、現在は対策がされていますので、新たな感染の危険性は減っています。
 しかし、C型肝炎は慢性化しやすいといわれています。C型肝炎ウイルス感染者の約6〜7割が慢性化して、その内の3割は肝硬変が進行し、肝癌が発症する可能性が高いといわれています。


人間ドックや検診時に、肝臓の項目の
数値に異常が示された人は、精査を


 肝臓にウイルスが入ると炎症を起こします。その炎症の状態が6ヵ月以上続く場合を「慢性肝炎」といいます。しかし、症状が一過性で、数週間でおさまるものについては「急性肝炎」といいます。
 私たちの身体にウイルスが入ると、侵入したウイルスが作るタンパク(抗原)が体内に出、それに対して、身体が抗体を作ります。採血をして、これらの抗原と抗体を調べれば感染の有無が分かります。しかし、抗体などが体内でできるまでには1ヵ月ほどかかります。
 皆さんの中で、今までの人間ドックや市民検診時に、肝臓の項目AST(GOT)やALT(GPT)の数値に異常を示したことのあるという人は、精査が必要でしょう。
 検査結果で感染が明らかになると、肝臓の状態を採血、超音波エコーやCT、MRIなどで調べるとともに、ウイルスの型や量を調べて治療を開始します。
 治療の主流はインターフェロンの注射ですが、併せて抗ウイルス剤(内服)を使うこともあります。数ヵ月の加療中、最初のある一定期間は、インターフェロンなどの薬が身体に合うか否か、またウイルスに効くかを診るために入院しますが、その後は、通常の生活が可能です。
 B型、C型ウイルスの感染者との接触ですが、通常の入浴、握手、同じ食器の使用などの日常生活では感染しません。しかし、血液の扱いには注意が欠かせません。ひげ剃り機器、歯ブラシ、出血時の手当て、女性では、経血の処理などは確実に行なう必要があります。
 また、性行為で感染する可能性がありますので、パートナーがウイルス保持者の場合には、自己予防のためにB型ワクチンを接種するか、避妊具などで予防しましょう。
 自分の身体に異常を感じなくても、肝炎ウイルスに感染していないかを知ることが大切です。一般的には、手術を受ける際には、医療機関で感染症の検査が行なわれます。感染の有無を知るには、次の項目をチェックしてみるといいでしょう。
 @家族に肝癌になった人がいるか否か。
 Aパートナーが感染者か否か。
 B1985年以前生まれ(母子感染未対策)であるか否か。1986年から母子感染防止事業が実施される。
 C過去に、輸血や大きな手術を受けたか否か(血液製剤・輸血)。
 D入れ墨やアイラインの入れ墨をしたか否か。
 E医療機関以外でピアスの穴開けをしたか否か。
 F国外で針治療を受けたか否か。
 GB型、C型の検査を受けたことがない。
 肝炎ウイルスの検査は、人間ドックや市民検診時のオプション、かかりつけ医への依頼、全国の保健所(無料か否かについては事前問い合わせが必要)で行なってください。
 最後に、肝炎治療特別促進事業の一環として肝炎治療(インターフェロンおよび核酸アナログ製剤)の公費の医療費助成があります。各県の窓口でお尋ねください。