診療室から Vol.53 認知症
認知症の人に対してはプライドを傷つけない配慮を
認知症は徐々に起こるために同居の
家族の場合はなかなか気付きにくい


 「認知症」という言葉をこの頃よく聞きますが、認知症になると、具体的には私達の身体にどのようなことが起こり、また、どのように予防できるのかを考えます。
 健康な人でも、年をとれば忘れっぽくなります。これは当たり前です。しかし、それと認知症の物忘れは異なります。
 例えば、昨日、食べた物や会った人の名前、物を置いた場所などがすぐに思い出せなくても、記憶をたどりながらでも思い出すことができるのは、年相応の物忘れです。
 ところが、認知症の場合は「昨日○○食べたでしょう」と尋ねても「食べてない」。「○○さんと会ったでしょう」と聞いても「誰とも会っていない」と答えたりします。また、身近なお嫁さんや娘さんの「○○に着物を取られた」など、あり得ないことを言います。
 認知症は徐々に起こるために、特に同居する家族の場合はなかなか気が付きにくいのですが、今までできていたことが、だんだんとできなくなります。
 特徴としては、料理の味付けが変わる、ATMの操作が分からなくなる。また、自分のいる場所が分からなくなったり、物を置いた場所を忘れることが多くなる、日付や曜日を間違え、同じことを何度も聞いて来るなどがあります。
 認知症の原因はいくつかありますが、アルツハイマー病や脳血管障害が有名です。脳の細胞が壊れることでアルツハイマー病は起こり、物忘れのほかに理解力も低下します。進行すれば会話の単語数が減り、さらに症状が進むと、会話が困難になります。また、視空間の認知障害が起こると、家に帰れなくなったりします。
 この病気の前兆に記憶力の低下があります。認知症の軽度の人の一部の人がこの病気に進行しますので、軽度認知障害の時点で加療を始めれば進行を送らせることができます。
 脳血管性認知症としては、脳の血管が、詰まったり破れたりすることを繰り返していくうちに、起こした場所によって色々な症状が出ます。物忘れのほかに言語障害、過度の上機嫌、歩き方がおかしいなどの症状が現れます。脳梗塞(こうそく)の危険因子の高血圧・糖尿病・脂質異常・喫煙などがある人や、脳卒中を起こしたことのある人は注意しましょう。
 また、前頭部や側頭部の脳が萎(い)縮(しゅく)すると、物忘れよりも性格が変わり、自分勝手な言動や怒りっぽくなったり大騒ぎをしたりします。このため、認知症とは思われず、精神疾患などのほかの病気に間違われることもあります。
 脳に、ある物質が沈着することで神経細胞を壊し、頭痛や眩(め)暈(まい)などの神経症状やうつ病の症状が出たり、幻視や幻聴などの症状、すり足や小幅歩行などパーキンソン病のような症状から始まる認知症もあります。


認知症は治療しても徐々に進むので
周囲の正しい理解と接し方が必要


 最近の病院には「物忘れ外来」がありますから、かかりつけ医に相談して必ず家族同伴で受診しましょう。
 外来では、その人の生活状態など、次のようなことを聞かれます。
@内服中の薬
A今までかかった病気
B現在の状況
C何時からどんな症状が出ているか
 これらのことは、家族が医師に説明するポイントとなりますので、受診する前によく整理してから臨むと良いでしょう。病院での検査としては、記憶などを調べるテストや、CT、MRI、脳血管の血流検査、血液検査などです。
 現在の治療は、アルツハイマー病にも多くの薬がありますし、脳血管障害には、梗塞や出血を防ぐ薬、パーキンソン病の薬などなど、原因に合わせて色々と使用します。
 認知症は治療しても徐々に進みますので、周囲の人は正しく理解して接してあげて下さい。
 例えば、何度も聞いている話だからということで話を聞かなかったり、言動を否定したり、良かれと思い、記憶量を高めようとする訓練などをすると、症状を悪化させることもあります。思いやりの気持をもって、できないことを責めないで、工夫してできるようにしてあげましょう。
 盗られたという物も、「そんなこと、ある訳がないでしょう」と言わずに、一緒に探して見つけてあげて下さい。とにかく、本人のプライドを傷つけないことが重要です。また火事にならないよう、灯油ストーブやガスコンロは止めて、空調暖房やIHヒーターに替えるなども有効かもしれません。


楽しい会話やダンス、散歩などは
脳を刺激し、認知症の予防に一役


 認知症は、生活習慣病(糖尿・高血圧・脂質異常・肥満)や喫煙が関与していますので、予防としては、喫煙・運動不足・脂肪過多食などを見直しましょう。
 日常生活においては、なるべく色々な場に出かけ、友達を作り、会話を楽しみましょう。また、新聞を読み、日記をつける。カラオケや手芸、パソコン、稽(けい)古(こ)事(ごと)やサークル活動などは、脳に刺激を与えます。ダンスや散歩も、肉体の健康維持だけではなく、身体を動かすことで脳に刺激を与えますので、とても良いことです。
 食事では、動物性脂肪を控えて、ビタミンE、DHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)などを多く含んだ野菜や魚を多く摂りましょう。また、規則正しい生活や正しい食生活も大切です。
 認知症かどうかをチェックする方法としては、次のようなものがあります。
 しまい忘れが増えた・稽古日を忘れた・稽古に行かなくなった・すぐ怒る・テレビなど見なくなった・家でぼんやりとしている・友達と会わなくなった・約束を忘れる・何回も曜日や日にち、時間を聞く・物を盗られたと言う・大切な記憶をなくす・食事の好みが変わる・新聞を読まなくなる・人の悪口を急に言い出した・家計簿や日記をつけなくなった・趣味を止めた。
 これらの症状が複数あれば、家族や周囲の人はプライドを傷つけないように、「一緒に検診を受けよう」と誘ってあげて下さい。
 家族に高齢の人がいて、変わった行動や物忘れが目立ってきたら、早く気付けるように見守りましょう。