診療室から Vol.52 飲酒の功罪
「酒は百薬の長」を科学すると最低でも「節酒を」との結論に
アセトアルデヒドはタバコの煙にも 
「飲酒・喫煙」者の発ガン率は357倍


 皆さんは、アルコールを飲み過ぎると肝臓や膵臓(すいぞう)を傷めて、アルコール性肝炎や膵炎になることは、よくご存知だと思います。ところが、それ以外にも、食道ガンや肺ガン、頭頚(とうけい)部(ぶ)(口(こう)腔(くう)・鼻腔・副鼻腔・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)・唾液腺・甲状腺)ガンの危険因子であることが、最近の研究で証明されました。
 アルコールは、肝臓で、アルコール脱水素酵素(ADH)で分解され、アセトアルデヒドとなります。その後、アセトアルデヒドは、アルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解されます。
 これらADHとALDHには遺伝子多型があり、ADH活性が低いタイプの人や、ALDH活性が中間タイプの人がガンになりやすいということが言われています。
 ALDH活性が強い人は、いわゆるお酒に強く、日本人の約半数を占めています。活性が弱い人は、日本人の約1割で、このタイプの人は全くお酒が飲めません。しかし、ALDH活性が中間型の人は、日本人の約4割を占め、顔が赤くなり、頭痛や吐き気、動(どう)悸(き)などの症状が出るタイプの人です。
 ある報告では、顔が赤くならない人が一日1合の飲酒をして食道ガンになるリスクを1とすると、一日2合でリスクは6倍、一日3合でリスクは11倍とのデータがあります。顔が赤くなる人が一日1合の飲酒をすると、リスクは6倍、一日2合でリスクは54倍、一日3合では、なんとリスクが77倍になると言われています。
 アセトアルデヒドは体内に蓄積すると、肺から呼気中に放出され、口腔内や食道・気管内に留まり、遺伝子や染色体を傷つけ、発ガンに結びつくのです。
 アセトアルデヒドは、タバコの煙の中にも含まれており、2種類の遺伝子タイプを持ち、飲酒と喫煙をしていると、それらの因子を全て持たない人に比べて、357倍も発ガンのリスクが高まることが判っています。
 今までの話から想像できると思いますが、これらの危険因子を持っている人は、1種類のガンだけではなく、重複してガンを発症するリスクも当然高まります。そのような患者さんは決して珍しくありません。生活習慣から、中高年の男性に罹(り)患(かん)率が高いことは、言うまでもありません。


大量の酒の摂取で大脳機能が麻痺し
更に健忘などの後遺症が残ることも


 これらのガンを予防するには、当然、「禁煙と禁酒です」と言いたいところですが、昔から「酒は百薬の長」という言葉もあります。少量のアルコールは、血管を拡張させて血圧を下げたり、身体を温める作用があります。その他、善玉コレステロールを増やす作用もあります。
 またアルコールが、長年、日本人のコミュニケーションを円滑にするという役割を果たして来たことも否定することはできません。
 要は、飲酒の量が問題なのです。大量のアルコールは、逆に高血圧、糖尿病、痛風、脂肪肝などの生活習慣病を招きます。アルコールの血中濃度に比例して大脳機能が麻痺(まひ)し、運動機能を低下させるのです。ビタミン不足によるウェルニッケ脳症と呼ばれる意識障害や眼球運動障害・小脳失調という身体のふらつく運動障害を起こしたり、更にはコルサコフ症候群という健忘を特徴とする後遺症が残る場合もあります。
 血中濃度が高濃度になると、意識がなくなったり呼吸が停止します。吐き気を催し、嘔(おう)吐(と)によって窒息することもありますし、転倒による外傷も、後遺症が残るくらいの大怪我をする危険もあります。
 また、毎年のように起こる大学生の新入生歓迎会での急性アルコール中毒、更に、それによって命を落とす若者の事故は、実に気の毒です。
 ご自分や他人の体質をよく把握して、顔が赤くなるタイプの人にお酒を無理に勧めたり、お酒を飲むと気分が悪くなるのを我慢して飲み続けるという行為は、慎んでほしいと思います。


家庭崩壊を招くアルコール依存症。
予防には、週に1〜2回の休肝日を


 食生活でも予防の助けになるものはあります。2008年に厚生労働省の研究班が発表した報告では、野菜や果物の摂取量が一日当たり100g増えると、食道ガン発症のリスクが10%下がったとのことで、キャベツ・大根・小松菜などで反応が良かったそうです。
 2012年、東北大学の中山享教授らは、口臭や食道ガンの原因物質を除去する粉末を開発しました。イチゴの表面から取れる酢酸菌を原料に使い、アセトアルデヒドを口の中で分解するサプリメントへの応用が期待されています。
 しかし、これらの予防も確実なものではありませんので、早期発見のためには、定期的検査を受けるようにしてください。
 食道ガンを早期発見する検査は、まず内視鏡検査です。食道をヨード液で染色したり、最近では画像を拡大したり、特殊な光源を使用できる内視鏡システムも開発され、診断能力が飛躍的に向上しました。
 内視鏡検査は、未だに怖いとか、しんどいというイメージが強い検査ですが、最近は、経鼻内視鏡や全身麻酔下での経口内視鏡など、以前よりは楽に受けられる選択肢が増えました。特に危険因子を持つ方は、食道ガン専門医による検査をお勧めします。
 頭頚部ガンも、内視鏡検査や頭頚部ガン専門医や耳鼻咽喉科医、歯科医の診察で発見されます。肺ガンは胸部レントゲン検査やCT検査・気管支鏡検査で、甲状腺ガンは超音波やCT検査で調べることができます。CT検査で診断がつかなければ、MRI検査やPET検査を勧めることがあります。
 血液検査でガンのマーカーを測定することができますが、これは早期発見の検査ではありませんので、よくご理解ください。ガンの早期発見は、あくまでも内視鏡や画像検査で行ないます。
 定期検査の頻度は、一年に1回が標準ですが、危険因子を持つ人は、3〜6ヵ月毎に受けたほうが良い人もいますので、検査を受けた施設の医師にお尋ねください。
 毎日飲酒を続けると、いつの間にかアルコール依存症になって、止められなくなります。そうなると、本人は入退院を繰り返すことになり、家庭は崩壊します。どうか、週に1〜2回の休肝日を作り、節酒を心がけてください。
 一日あたりのエタノールの摂取量=男性が25g、女性が20gに換算すると、ビールなら大瓶1本、日本酒なら1合、焼酎は125ml、ウィスキーはダブル1杯、ワインはグラス2杯くらいが目安を、頭の隅に置いておくといいでしょう。