診療室から Vol.51 心筋症
ips細胞は希望の灯だがまずは生活習慣の改善を
拡張型心筋症が良くなる例は
薬剤の効果もあるが、生活習慣の改善が大


 心臓の病気には、心臓を養う血管の異常、心筋の異常、脈の異常等々があります。今回は心筋の異常による「心筋症」についてです。
 心筋症には、心筋が薄くなり内腔が拡がっている「拡張型心筋症」、心筋が肥大し若い人の突然死の原因ともなる「肥大型心筋症」、重篤(じゅうとく)な不整脈を特徴とする「不整脈原性右室心筋症」があります。そのほかにも心筋症と分類される疾患群がありますが、今回は主要なこの三つについて説明します。
 拡張型心筋症は、形は風船が膨(ふく)らんだ状態をイメージして下さい。空気がパンパンに入るといかにも縮じみにくそうです。機能的には心臓の収縮不全が特徴です。病因はウイルス説が有力でしたが、最近は遺伝子異常の報告も見られています。
 更には、妊娠、アルコール中毒、栄養障害、高血圧なども発症・進展に関与することがあります。人口10万人に数十人が罹(かか)り、各年代に分布していますが高齢の男性に多いです。
 自覚症状は、動くと息切れがする、どきどきする、すぐ疲れる、むくみなどの心不全症状、脈の不整感、胸痛。ひどい時には失神など不整脈による症状、脳や肺、腎臓などの血管に血液が詰まる塞栓症(そくせんしょう)による症状などが主なものです。
 症状が出、循環器内科の診察で発見される場合や、健康診断などで胸部写真を撮って発見されるケースが多いです。検査では胸部写真では心拡大が見られます。心不全を伴っていれば胸水貯留なども見られます。また心電図で不整脈が見られることがあり、突然死との関連もあり重要なサインの一つです。
 診断する際で一番役に立つのは心エコー検査です。左室の拡大、心筋壁運動の低下が特徴的です。MRI検査は、造影剤を使用せず心機能を評価し、他の疾患との鑑別にも有用にて、現在注目されています。
 治療はまずは薬です。予後の改善(長く生きられるように)、心不全の予防、改善、そして突然死予防の不整脈の抑制が目的です。ただ内服のみではコントロールできなくなり重症化することがあります。
 補助循環(人工心臓)、心臓を縮小させる手術などが行なわれることがあります。心臓移植もされていますが、免疫系、感染など難しい問題があります。
 突然死は前述のように不整脈によることが多く、不整脈の抑制にはICDと呼ばれる「植え込み型除細動器」を体内に植え込むことでずいぶん突然死が予防されることが解ってきました。
 元来、ペースメーカーは脈の遅い心臓に一定の脈拍を与える目的で右室に植え込んでいましたが、心不全の治療に左右に植え込む「両室ペーシング」という処置をすることで、心不全の改善がなされています。これに相俟って、ICD機能を持った両室ペースメーカーの植え込みも積極的に行なわれるようになってきました。
 また治療の経過中に心機能が良くなるケースは、薬剤の効果もさることながら、アルコールや塩分制限、生活習慣改善の効果も大きいと考えられています。


肥大型心筋症の主な因は遺伝子異常症状は
無症状から突然死まで多様性


 肥大型心筋症は心室筋が太く肥大するのが特徴です。心臓はポンプとして血液を送り出すために収縮し、その後、血液を送り出すために拡がる(拡張)ことをリズミカルに繰り返すのですが、拡がりにくい状態、つまり拡張障害が特徴です。
 病因は、何種類からの遺伝子異常が関わっていることが解っています。遺伝子異常が多様であるとともに、症状も多様性で生涯無症状な人から突然死まで、また一人の患者を追っても症状が様変わりするのが大きな特徴です。当然、治療もその時の病態に応じてとなります。
 症状としてはほとんど無症状な人、動いた時の息切れ、座らないと息ができない、胸痛、失神、倦怠感(けんたいかん)など、心筋が厚くなり心臓の中の血液の流れが障害されることによるもの、心筋の機能不全、不整脈などによるものなどです。
 検査では心エコーにて厚い左室心筋及び、左室の中の圧力の差=圧較差、つまり心筋が厚くなり内腔が狭い箇所が生じると、その前後にて圧力が変わるのでそれを調べます。
 重症度を調べるには「心筋シンチ」という、放射性医薬品を使った画像診断法の一種の検査を行ないます。また心臓MRIにて心臓の形、機能を評価し、心肥大をきたす他の疾患、高血圧心などとの鑑別をします。
 治療は変化する症状に応じますがまずは薬です。圧較差を軽減する目的、拡張能障害の軽減を目的にて内服が始まります。
 また症状が進行すると元来の拡張不全に、更に約5%の確率で収縮不全が生じます。収縮不全に陥ると心臓からの有効な血液量が更に減り、心不全症状が進行します。その時は通常の心不全に対する薬を服用させます。
 不整脈がある場合で、心房細動という心房が不規則に収縮する状態には抗不整脈薬と抗凝固剤が、心室性不整脈という時に致死的となる不整脈に対しては、薬よりもむしろ植え込み型除細動器が適応となることが多くなってきています。薬以外では、左室内圧較差に対して外科治療や、カテーテルを使った治療が行なわれます。
 肥大型心筋症の死因は、突然死、心不全死、塞栓症死の順に多く、治療は必然的にこれらの予防が大事なわけです。


不整脈原性右室心筋症は80%以上が4
0歳未満に発症するのが大きな特徴


 次に不整脈原性右室心筋症についてです。心臓は右心系、左心系に分かれますが、不整脈原性右室心筋症とは、右心系の心室、右心室が起源の重篤な不整脈を特徴とする疾患です。
 男女の比率は2・7対1で、男女合わせて5000人に1人くらい発症しますが、80%以上が40歳未満というのが大きな特徴です。若いこれからの主に男性が、失神、重篤な不整脈、心停止などを生じる疾患です。
 診断は家族歴も重要で、突然死や、不整脈原性右室心筋と診断された家族がいることや、心電図、心エコー、心筋生検などを行ないます。また治療は、不整脈に対しては薬物や、あるいは非薬物療法としてカテーテルアブレーションという不整脈発生に関する場所を、カテーテルを介して焼く治療や、除細動器を植え込んだりします。
 心筋症には、他にもアミロイドーシス、サルコイドーシス、ミトコンドリア心筋症、たこつぼ型心筋症など種々ありますが、これらは次の機会に譲ります。
 心筋症は薬剤や非薬物療法を早期から行なうことで予後改善効果が見られてきています。まず発見が大切なので、健康診断、人間ドックなどを積極的に受けるようにしてほしいものです。
 山中伸弥博士が昨年ノーベル医学賞を受賞したiPS細胞は、心筋症にも希望の灯です。実用化には今しばらく時間がかかるでしょうから、まずは食生活をはじめとする生活スタイルの見直しと改善、そして健康を重視して健康診断も怠らず受けるようにしましょう。