診療室から Vol.47 心因性視覚障害
家庭や学校でのストレスが引き金となる心因性視覚障害
心因性視覚障害を理解し、
正しく対応することが大切。


 私達の身体は、心理的な影響で身体に色々な症状が出ることがあります。これが「心身症」と呼ばれるものです。心身症とは、日常生活における心理的や社会的なストレスが原因で、身体のどこかに症状が起きる病気です。例えば、ストレスで心臓がドキドキして苦しくなる心臓神経症やストレス胃潰瘍、ストレス頻尿・夜尿、心因性聴力障害などがそうです。
 目にもさまざまな心身症が出ます。これを「心因性視覚障害」と呼んでいます。
 悪い所がないのに、視力検査をすると視力が出ない、また近視、遠視などのメガネをかけても視力が良くならない子供がいます。心因性視覚障害では失明はしませんが、この病気をよく理解し、正しく対応することが大切です。
 心因性視覚障害は「眼心身症」とも呼ばれています。眼心身症は大きく分けて、ストレスが原因で自律神経のバランスが悪くなるタイプと、ストレスを身体の一部に転換してしまうタイプがあります。目に転換するタイプには、チック、眼瞼痙攣(がんけんけいれん)、眼精疲労、心因性斜視、心因性視覚障害、心因性夜盲などがあります。


自分では気づかず、学校の健康診断で
視力低下を指摘される心因性視力障害。


 視覚障害の中でも一番多いのは視力障害で、「心因性視力障害」と呼び、心因性視覚障害のひとつです。心因性視力障害の場合は、近視や遠視や乱視のメガネをかけても視力が出ません。
 このような視力障害は、小学生や中学生などの子供に多く見られます。視力障害は0・4~0・6などの比較的軽い異常を示すことが多いです。また、半数以上の子供は自分では見えないことに気づかず、学校の定期健康診断で視力低下を指摘され見つかります。
 この他に視野の異常や色覚の異常、暗い所で見えない夜盲などの症状を伴うこともあります。視野の異常では、検査中に視野がらせん状に狭くなる「らせん状視野」や、中心しか見えなくなる「求心性視野」や視野検査の結果が花弁状になったりします。色覚異常では、全部がピンク色に見えたりします。
 本来、小学3~6年生で最も多い視力低下の原因は、近視や遠視などの屈折異常です。屈折異常はメガネをかければ視力が出ます。しかし心因性の場合は、視力測定で測るたびに視力が異なつたり、凸レンズと凹レンズを組み合わせて、実際には度のないメガネをかけると視力が改善したりすることもあります。
 物を見ているのは目ですが、最終的に見ているのは大脳の後ろのほうの視覚中枢です。この脳にストレスがかかると、目に見えているはずのものが認識できないことがあります。
 眼球や視神経にも異常がない場合は、時に他の疾患を否定するために、頭部Ⅹ線撮影やコンピュータ断層撮影(CT)をまれにすることもあります。また、網膜や視神経の電気生理学的な検査などで、他の病気が隠れていないか、特殊な検査を行なうこともあります。


治療には、愛情が何よりも大切。
親を独り占めできて改善した例も。


 以前は、心理的ストレスと視力障害との関係がはっきりしていることも多かったのですが、最近では思春期に入ったばかりや、入る前の子供達に原因がはっきりしていない心因性視力障害が増えています。
 これは8歳から12歳の子供に多く、男女差があり、女子は男子の3~4倍多く見られます。周囲からみて良い子・真面目な子が多いとされています。また地域差はなく、ちょっとしたストレスが原因となって視力低下が起こると考えられています。
 原因となる心理的なストレスが明らかになれば、心因性視力障害と見て間違いありません。しかし、ストレスの原因が判るのは約6割で、原因がはっきりしないことも多くあります。
 また最近では、普通では心因的なストレスとは思えないささいな事が原因となっている場合もあります。これは、思春期前期の、心理的に不安定な状態によって引き起こされると考えられています。
 その元をたどると、家庭内の問題や学校関係のトラブルに行きつきます。大阪府眼科医会の調査では、「肉親の死」「両親の離婚」 のような家庭内の不可避の事から、「親の愛情の差別」「いじめ」「塾通い、お稽古事の負担」「親の過干渉」などです。
 また学校関係では、「入学、転校」「クラスの編成替え」「担任の交代」「友人関係」「部活」などがあります。具体例としては、踊るバレーの主役になったとか、駆け足でクラスの皆の前でほめられた、親の期待で委員長に立候補した、嫌いな人のボールが顔に当たった、下の子が生まれた、など、親としてはストレスと理解し難いことも多くあります。
 また友人や尊敬する先生、親がメガネを使用し、メガネに憧れている例もあります。この場合は、度のないメガネを一時的にかけてもらうこともあります。
 心因性視力障害の治療では、ストレスの原因を取り除くことも大切ですが、簡単に解決できないことも多く、学校の担任、養護教諭などと連絡を取りながら、経過を見ることも必要でしょう。
 保護者が「あなたは心の病気だから心配ない」と本人に伝え、逆に悪化したことがあります。母親の愛情が大切です。抱きしめてやることで解決することが多くあります。
 例えば、ビタミン剤などの無害な点眼を処方し、点眼する時に、だっこや膝枕(ひざまくら)で目をつむらせて、親としては当たり前の「あなたはとても大事なのよ」と、遊園地で遊んだことなど、色々な楽しい昔話をすることで落ち着くことがあります。
 また、一緒に風呂に入ったり寝たりします。時には、その子を他の子よりも少し内緒で可愛がるのも一つです。眼科受診時に、親を独(ひと)り占めできて改善したなどを経験しました。
 心因性視力障害は、子供のある時期に起こる一時的な現象です。詐病などの、利益・目的は何か?などと心配し過ぎないようにしましょう。
 この症状の場合は、一般的には内服薬は使いませんが、子供の不安が強い時には、まれに薬剤を使用することもあります。
 心因性視力障害で失明することはなく、1年以内に視力が改善するものがほとんどです。特に小学生では暗示療法が有効で、3カ月以内に70~80%の子供が視力1・0まで改善します。しかし中学生になると、心因が複雑なものが多くなり、治療が困難な場合も時にはあります。
 治療が困難な場合や、1年以上も視力の改善傾向が見られない場合、何度も再発する場合などは、小児科の心身症担当医や小児精神神経科の受診が必要なこともあります。
 心因性視覚障害は心が原因です。親御さんは、何よりも子供さんをよく見、子供の心に寄り添うことが大切といえます。