診療室から Vol.43 メンタルヘルス
栄養不足、食物アレルギーが「心の病」を引き起こす
若年層にも増加傾向の「心の病」
その原因は、精神的と身体的に大別。


 近年、「心の病」 にかかる人が増えています。私の外来患者さんの中にも、精神科や心療内科にも通院している人が結構います。しかも、高齢の患者さんだけではなく、20歳代・30歳代の若い人でも、何種類もの抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬を服用している人が珍しくなくなってきました。
 さらに由々しき問題は、発達障害(自閉症、学習障害、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害ADHD)やうつ病、不登校などの問題を抱えている子供達の数も、年々増えているということです。
 心の病をメンタルトラブルとも言いますが、その原因は、大きく分けて、精神的ストレスと身体的ストレスの2種類に分かれます。
 精神的ストレスとは、例えば対人関係、仕事の重圧、事故の衝撃、挫折(ざせつ)体験、将来に対する不安、環境の変化などが挙げられます。
 一方、身体的ストレスとは、過労、運動不足、睡眠不足、温度、湿度、騒音、ホルモンバランスの変化(月経、妊娠、更年期、加齢)などの他に、暴飲暴食、無理なダイエットなど不規則な食生活も原因となります。
 心の病にかかっている人達が、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を併発し、その薬も合わせると、恐ろしく大量の薬を服用することになってしまいます。
 そのような状況が、患者さんご本人の身体に良い訳がありません。薬というのは、元々人間の身体にない物ですので、ある人には良薬でも、別の人には毒になることもあるのです。多くの薬を服用すると、相乗作用や相反作用により、薬が効き過ぎたり効きにくくなったり、副作用が出やすくなることも少なくありません。
 最近は、がんも含め色々な病気が、身体に良くない食事や運動不足などによる生活習慣が原因であるということが、科学的にも証明されるようになってきました。気管支喘息(ぜんそく)や花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患も、身体に良くない食事がかなりの割合で影響していることも判ってきました。
 ですので、私も患者さんには、日本の伝統食である和食中心の食生活や適度な運動と禁煙を勧めています。しかし、心の病に関しては門外漢ですので、精神科や心療内科の専門医に治療をお任せしてきました。


栄養と精神疾患の関係は50年前に
判明。栄養療法でその症状が改善。


ところが、最近色々と調べていますと、「脳アレルギー」という言葉や、心の病気と栄養についての報告が、幾つか散見されるようになってきました。つまり、色々な栄養不足や食べ物のアレルギーが、脳や神経細胞の機能障害を起こし、心の病を引き起こすことが判ってきたのです。
 精神疾患と栄養の関係を最初に世に発表したのは、今から50年以上前に、カナダの精神科医であるアブラハム・ホッファー博士でした。博士は、当時、独自の栄養療法によって精神病の患者の症状改善を報告しましたが、当時は全く評価されなかったそうです。
 日本では、これらのことについては、まだまだ知られていないようですが、海外の代替療法を行なう医師の間では、「ブレイン・アレルギー」として広く知られているとのことです。
 脳の活動は、神経細胞が色々な神経伝達物質によって信号を伝達し合っています。また、最近では、腸にも、脳と共通するホルモンや神経伝達物質がたくさん存在し、多くの免疫細胞が集まっているということが判ってきました。
 その神経伝達物質の原料は、食事から摂(と)る栄養です。よって、栄養不足に陥ると、神経細胞同士の信号が上手く伝達されずに、心のトラブルが生じるのです。ですから、身体だけではなく、脳(=心)にとっても、いかに食事が大切であるかということが言えます。
「脳アレルギー」には次に挙げる四つのタイプがあります。
@食物アレルギー(IgEアレルギー)
A偏食タイプ(IgGアレルギー)
B腸免疫タイプ(IgAアレルギー)
C砂糖アレルギータイプ(低血 糖症=糖質依存型)
 @は、食生活の欧米化により、多量の動物性たんばく質を摂取することで、結果してその動物の血液が体内に入り、人間とは異なる異分子血液が抗原となってアレルギーを起こすのです。
 Aは、同じ物ばかりを食べることで、それが抗原となってアレルギーを起こします。
 Bは、甘い物や加工食品の摂り過ぎで、腸の機能が衰えるために起こります。
 Cは、文字通り甘い物や精製された穀物の摂り過ぎで、低血糖症になったり、血糖値の変動が大きいなどの異常によります。
 問題行動を起こす子供達の食生活の傾向を調査した報告によりますと、
@一日3食をきっちり食べない。
A決まった時間に食べない。
B品数が少ない。
C主食・副食の区別がない。
D間食や外食が多い。
E加工食品、冷凍食品、即席食品が多い。
F家族と一緒に食べない。
G炭酸飲料やスナック菓子など糖類、穀類の摂り過ぎ。
H野菜類とたんばく質の不足、ビタミン・ミネラルの絶対的不足。
といった傾向が見られるそうです。


無関係ではない子供の「キレル」と
急激に欧米化した日本人の食生活。


 心の病の原因が、全て食生活であるという訳ではありませんが、食生活の改善で心の病が治り、それまで服用していた薬を止められたという例も数多く報告されています。
 正しい食生活の基本は、できるだけ手作りで薄味です。古来日本人の食生活は、穀物、野菜・根菜類、豆類、果物、海藻、木の実が中心で、たまに、ハレの日に魚類、そして年に数度、鳥の肉を口にするというものでした。油も今ほど手に入る状況ではなく、この摂取量はごく少なかったのです。
 ところが、戦後の日本人の食生活は、ことに東京オリンピックを境にして、世界でも類を見ないほどに、急激に欧米化しました。たんぱく質の摂取方法も豆類の植物性から動物性食品に変わりました。そして、揚げ物、炒(いた)め物などの抽を使った料理は日常茶飯事となりました。
 このような食生活の変化と、子供達の「キレル」、「校内・家庭内暴力」との発生件数も全く無関係ではないとの調査結果もあります。
 家族一人ひとりの行動が異なり、なかなか家族揃(そろ)って食事を摂ることが難しい現代ですが、努めて一緒に、そして量は腹八分目を心がけるようにして下さい。
 ただし、家族と言っても、人それぞれ体質が違いますので、各自の体質に合わせて調理し、薬やサプリメントに頼らない健康な生活ができるようにしましょう。