診療室から Vol.41 日食観察
日食観察について注意してください
 5月21日、午前6時過ぎから9時ごろまで、天気に恵まれれば、全国で「部分日食」か「金環日食」を見ることができます。
 地球から見て、太陽は黄道を1年かけて、月は白道をひと月かけて廻っているように見えます。黄道と自道とは約5度の傾きがあるため、日食や月食が起こるのは、太陽と月の通り道(黄道、自道) が交わる所に月がある時です。
 つまり、太陽と月と地球が一直線に並んだ時で、月が太陽と地球の間に入り、月が太陽を隠すために太陽が欠けて見える現象が日食です。
 日食には、「皆既日食」「金環日食」そして「部分日食」の3種類があります。月の公転と地球の公転が楕円(だえん)のために、太陽と月、太陽と地球、地球と月の距離が異なることから起こるのです。簡単に考えて、地球から見える太陽や月の大きさが異なって見えます。
 月が地球より太陽に近い軌道にある時は「皆既日食」、地球に近い軌道で廻っている時は、「金環日食」となります。「部分日食」は、太陽が通る道(金環日食帯)によって起きます。
 NHKの大河ドラマ「平清盛」にそのシーンが出てくるかどうかは不明ですが、『平家物語』や『源平盛衰記』 に記されている平家と木曽源氏の戦いで、源氏は平家に負けましたが、その敗因は、実は日食でした。
 源氏は日食を知りませんでした。そのため、太陽の欠けるのに驚き、おののいてしまいました。しかし、日食のことを知っていた平家は兵士の士気も下がることなく源氏を打ち負かしたのです。
 日食にまつわるエピソードは、日本では天岩戸の神話に始まり、ヨーロッパやイスラムでも、神話から政治、戟争まで種々の場面で出てきます。
 このように、日食は自然科学だけではなく、歴史の興味をも育てる絶好の機会ですので、宇宙の神秘現象を大いに堪能してもらいたいと思っています。
 しかし私たち眼科医は、不適切な観察をすることで、太陽の光で限の底が傷まないかを心配しています。誤った方法で太陽を見ることで、数千人の「日食網膜症」の患者さんが発生するかも、とも言われています。
 そこで、正しい観察について説明します。安全な日食の観察方法は、「直接法」と「間接法」の2種類があります。
 まず直接法は、日食観察用に作られた専用グラスを用いて見る方法です。しかし、観察用のグラスでも長時間観察するのは好ましくありません。あまり長い時間見ることは避けましょう。
 それに対して間接法は、厚紙に開けた小さな穴を通った光を別の紙に映して観察する方法と、地面に映った木漏れ日が欠けていくのを観察する方法です。
 私たちの子どもの頃は、すすを付けたガラスや、黒色の下敷きで太陽を見ましたが、これは危険です。また、露光したフイルム、サングラスで見るのも危険な観察法ですので、絶対にしてはいけません。
 今回の日食は金環日食ですので、皆既日食とは異なり、真っ暗になることはありません。したがって、太陽が欠けて薄暗くなるだけです。たとえ当日が曇りでも、雲に透けた太陽光でも見るのは眼にとっては危険なことです。
 太陽の光は、眼の中のレンズで集められ、強い光(青系)で眼の底にあるフイルム(網膜)が化学反応を生じてしまい、日食網膜症が起こります。双眼鏡や望遠鏡、カメラのファインダーなどでは、集まった熱のため眼の底が焼けてしまい失明につながります。絶対に使わないで下さい。
 5月21日の金環日食は時間帯から考えると、自宅にいるか通学、通勤の時間帯です。事故を防ぎ、楽しい観察をするためにも、保護者の皆さんは、子どもさんに安全な観察法を指導して下さることを願っています。
 40歳代になり、名刺や辞書を少し離したほうが見やすいなどの症状が出れば老眼です。老眼という言葉は聞こえが悪いので、調節衰弱というのが正式ですが、一般化していません。調節力の低下は、カメラの自動焦点の抽ぎれと同じで、20歳代過ぎから徐々に起こります。
 目の中で、ピントを合わす役割をしているのは、水晶体と呼ばれる厚さ約4mm、直径は約9mmの透明なレンズで、茶目(虹彩) の後ろにあります。水晶体には周囲に細かい糸がついていて、眼球の毛様体と呼ばれる所に全周にわたって繋(つな)がり、宙に吊り下げられた状態です。
 ゼリー状の水晶体は年とともに固くなります。若い頃は、水平方向に引っ張っている糸が、緩(ゆる)むと水晶体は球形になろうとします。そのためにレンズが厚くなり近くが見えます。反対に、チン小帯が引っ張られると水晶体は薄くなり遠くが見えます。
つまり、レンズの厚さを変えてピントを合わせています。
 老眼はその弾力が低下し、固くなった状態です。そのため、近くを見る時に眼鏡で補う必要があります。老眼は突然になるのではなく、総ての人に平等に、ほぼ同じ時期に起こります。ですから年齢を伺うと、必要な度数はだいたい判ります。
 よく、「近視の人は老眼になりにくい」と言われますが、これは俗説です。近視の眼鏡は少し緩めに処方するため自覚が遅れるだけです。一方、遠くがよく見えていた人は、近くを見るための調節力がより強く必要で、老眼を早くに自覚します。
 老眼鏡をかけずに頑張ることは、眼精疲労を増すだけです。また、判読の機能をより使うことで、肩こり、頭痛、めまいの原因となります。
 では、どのような老眼鏡を買えば良いのでしょうか。ピントを合わす力は、よく寝た朝と、疲れた夕方では変わります。ですから、一度に決めずに1〜2回測ってから作ったほうがいいです。度数は、主に使う距離や見る文字の大きさにもよります。
 よく、遠近両用の眼鏡は使いにくいと聞きます。会議や芝居などで遠くを見ながら書類、冊子を見たりする遠近の眼鏡と、コンピューターをしながら書類を見る中近の眼鏡は異なります。
 簡単に考えると、昔の切り替えカメラと同じです。例えば、山、集合写真、一人、花の撮影では距離間が違います。同様に、正面で無限遠、4〜5m、1m(パソコン)、下方視では1mから30〜50cm。作り始めは緩めの遠近が使いやすいです。また、遠近両用の累進は、近くの見える範囲も単焦点より狭いため、上下幅の広いフレームのほうがいいでしょう。
 書類などが見えにくくなれば、辞書を読む距離か、新聞、雑誌を離して見る距離かを決めて、近用だけの眼鏡をまず件ります。その上で料理用、テレビ用などを考えたら良いと思います。さらに度が進んだ時のために、度数の緩い老眼鏡はテレビなどの中距離用に使える場合もありますので残しておくと良いです。
 眼鏡は道具です。眼鏡をかけずにいると怪我(けが)をしたり、見えない世界に頭が順応します。小生は、眼鏡がいざ必要になった人に、何回も度数を徐々に上げて合わせたことがあります。
 眼科と眼鏡店は良きパートナーですが、眼鏡店では眼鏡を調製するだけで、処方するのは医者です。ですので、当然、医学的根拠はありません。
 最後に、学校から眼科受診勧告をもらった時や、老眼かなと思った時、見えにくいと感じたら、一度は受診し、異常がないか検査してもらって下さい。視力は変化します。その年齢、その目的に合った眼鏡を作ることをお勧めします。
【日食網膜症とは】
@症状=観察直後には異常は認められないが、数時間後に眼の痛み、視野の真ん中が暗くなる(中心暗点)、ゆがんで見える(変視)、視力の低下が起きる。
A原因=波長の短い光の可視光線(青・300〜500ナノメーター)による網膜の化学障害によって起きる。なお、これは熱傷害ではない。