診療室から Vol.40 視力と眼鏡
誤った二つの俗説 近視の人は老眼にならない?眼鏡をかけると度が進む?
脳の発達と加齢による変化の中で
眼鏡は重要な位置を占めている。


 私達の目の構造は、妊娠5カ月頃にでき上がり、網膜(フイルム)は出産まで発達しますが、視力は生後、脳の発達とともに発達し、見る訓練をします。
 赤ちゃんの視力は、生まれてすぐは明暗が判る程度ですが、5〜6週で顔の輪郭などの大きい物が判るようになり、4カ月頃には物に手をのばします。2歳頃は0・5程度、5歳頃にようやく1・0になります。またその頃までに、立体感、遠近感が育ちます。
 眼球の大きさは体の成長とともに17mmから24mmに成長し、遠視から正視になります。その後、青年期を過ぎ、老眼(調節衰弱)が40歳頃から起こります。このように、人間の発達と加齢の変化の中で、眼鏡は重要な位置を占めています。


子どもの眼鏡は、枠の頑丈な物を。
できた眼鏡は必ず眼科で再確認を。


 幼少児は自分の見える世界が正しいと思う、また高学年でも視力低下を「悪い事」と思うためか、視力の低下を訴えませんので、周りの人の注意が必要です。目を細める、頭を横向けにしてテレビを見る、ゲームをするなどのしぐさは要注意です。
 また、遠視の場合は近くが見えにくいため、無意識で細かい作業や本を読むのを嫌い、勉強への根気もなくなります。気になる時は、3歳頃に眼科で診てもらうほうが良いでしょう。
 10代半ばまでは目の調節力(絞り込む力)が強いため、多少度数の異なった眼鏡でも見えます。例えば眼鏡店で、緊張したり、何度かレンズ交換をしている間に、レンズに目のほうが合わせ、異なったレンズでも見えてしまい、遠視の子が近視の眼鏡を作ることがあります。
 子どもに初めての眼鏡を作る時は、その子本来の度数の眼鏡を作ることが大切です。小生は検査慣れを含めて、2〜3回の通院、必要なら検査用の点眼薬で調節力を除き、本来の屈折を調べてから処方箋(しょほうせん)を出します。
 俗説の「眼鏡をかけると度が進む」を信じて、眼鏡をかけさせない保護者がいます。小学校低学年で、視力が0・4〜0・5に低下したら眼鏡は必要です。また、軽い調節痙攣(けいれん)による近視でしたら、点眼などの治療法を試みるのも一つの方法です。
 体がぶつかることが多い子どもの眼鏡は、枠(わく)のしっかりした物を選んで下さい。また、成長にともない度数の変化、顔の幅、鼻の高さや耳の位置まで変わります。高価なレンズや枠より頑丈(がんじょう)な物で、定期的に歪(ゆが)んでいないかを調べることが大事です。
 稀(まれ)に、レンズを枠に入れる時に度数を間違えたり、レンズの中心がずれていることがあります。できた眼鏡は、必ず眼科で処方通りになっているか確かめてもらうことを勧めます。
 眼鏡を嫌い、コンタクトレンズ(CL)を最初から希望する人がいますが、CLは目の負担を生じます。その負担を少なくするためにも、まず眼鏡を作った上で必要な時のみCLをして下さい。CLは眼鏡を持った上で高校生くらいになれば、管理もできるので良いと思います。
 また近頃、視力回復を謳(うた)い文句にしている施設があります。
費用が高額で、開設者には何の資格もなく、その方法も公開されていません (医学的根拠はありません)。私は、そこに勤めている人のCLを何人も処方している経験上、まじないのたぐいと見ています。


眼鏡は道具。眼鏡をかけずにいると
何時しか、見えない世界に頭が順応。


 40歳代になり、名刺や辞書を少し離したほうが見やすいなどの症状が出れば老眼です。老眼という言葉は聞こえが悪いので、調節衰弱というのが正式ですが、一般化していません。調節力の低下は、カメラの自動焦点の抽ぎれと同じで、20歳代過ぎから徐々に起こります。
 目の中で、ピントを合わす役割をしているのは、水晶体と呼ばれる厚さ約4mm、直径は約9mmの透明なレンズで、茶目(虹彩) の後ろにあります。水晶体には周囲に細かい糸がついていて、眼球の毛様体と呼ばれる所に全周にわたって繋(つな)がり、宙に吊り下げられた状態です。
 ゼリー状の水晶体は年とともに固くなります。若い頃は、水平方向に引っ張っている糸が、緩(ゆる)むと水晶体は球形になろうとします。そのためにレンズが厚くなり近くが見えます。反対に、チン小帯が引っ張られると水晶体は薄くなり遠くが見えます。
つまり、レンズの厚さを変えてピントを合わせています。
 老眼はその弾力が低下し、固くなった状態です。そのため、近くを見る時に眼鏡で補う必要があります。老眼は突然になるのではなく、総ての人に平等に、ほぼ同じ時期に起こります。ですから年齢を伺うと、必要な度数はだいたい判ります。
 よく、「近視の人は老眼になりにくい」と言われますが、これは俗説です。近視の眼鏡は少し緩めに処方するため自覚が遅れるだけです。一方、遠くがよく見えていた人は、近くを見るための調節力がより強く必要で、老眼を早くに自覚します。
 老眼鏡をかけずに頑張ることは、眼精疲労を増すだけです。また、判読の機能をより使うことで、肩こり、頭痛、めまいの原因となります。
 では、どのような老眼鏡を買えば良いのでしょうか。ピントを合わす力は、よく寝た朝と、疲れた夕方では変わります。ですから、一度に決めずに1〜2回測ってから作ったほうがいいです。度数は、主に使う距離や見る文字の大きさにもよります。
 よく、遠近両用の眼鏡は使いにくいと聞きます。会議や芝居などで遠くを見ながら書類、冊子を見たりする遠近の眼鏡と、コンピューターをしながら書類を見る中近の眼鏡は異なります。
 簡単に考えると、昔の切り替えカメラと同じです。例えば、山、集合写真、一人、花の撮影では距離間が違います。同様に、正面で無限遠、4〜5m、1m(パソコン)、下方視では1mから30〜50cm。作り始めは緩めの遠近が使いやすいです。また、遠近両用の累進は、近くの見える範囲も単焦点より狭いため、上下幅の広いフレームのほうがいいでしょう。
 書類などが見えにくくなれば、辞書を読む距離か、新聞、雑誌を離して見る距離かを決めて、近用だけの眼鏡をまず件ります。その上で料理用、テレビ用などを考えたら良いと思います。さらに度が進んだ時のために、度数の緩い老眼鏡はテレビなどの中距離用に使える場合もありますので残しておくと良いです。
 眼鏡は道具です。眼鏡をかけずにいると怪我(けが)をしたり、見えない世界に頭が順応します。小生は、眼鏡がいざ必要になった人に、何回も度数を徐々に上げて合わせたことがあります。
 眼科と眼鏡店は良きパートナーですが、眼鏡店では眼鏡を調製するだけで、処方するのは医者です。ですので、当然、医学的根拠はありません。
 最後に、学校から眼科受診勧告をもらった時や、老眼かなと思った時、見えにくいと感じたら、一度は受診し、異常がないか検査してもらって下さい。視力は変化します。その年齢、その目的に合った眼鏡を作ることをお勧めします。