診療室から Vol.37 メタボリック症候群
メタボは現代社会が抱える複合的な問題から生ずる
お相撲さんは皮下脂肪たっぷりだが
メタボとは言わないお相撲さんの体。


 中高年が気にする言葉の一つが「メタボ」。正確には「メタポリックシンドローム」「メタポリック症候群」と言います。いつの頃からか、会社などの健康診断では腹囲を計測するようになりました。
 昨今、メタポリック症候群(メタボ) が頻繁に取り上げられていますが何故なのでしょう。腹囲が問題と言うのなら、「肥りすぎは良くないから痩(や)せましょう」でいいはずです。しかし、新しい事実が分かってきたからこそ、メタボが注目されるようになってきています。
 メタボは、内臓脂肪が多くなりすぎることが病態の本質ですが、そもそも脂肪には、沈着する場所によって、皮下脂肪と内臓脂肪の二種類があります。
 内臓を取り巻く脂肪、特に胃や腸の周囲にある腸間膜という所にも脂肪が溜(た)まっています。これを内臓脂肪と言います。お相撲さん。あの人達は肥った人達です。皮膚のすぐ下にある皮下脂肪がたっぷり付き、もちろん筋肉も太く、肥って見えます。しかし、彼らはこの内臓脂肪は少ないのです。
 メタボと言われるのは、内臓脂肪が溜まっている人達、あるいはその病態を指します。ですから、お相撲さんはメタボとは違います。ここで少し脂肪、脂肪細胞、脂肪の役割について簡単にまとめておきましょう。
 私達は食事を摂(と)りますが、それはエネルギー摂取のためです。私達生き物の内臓、脳などは、寝ている時にもエネルギーが必要です。しかし睡眠中に食べるわけにはいきません。エネルギーを蓄える倉庫が必要です。中性脂肪という形でエネルギーは脂肪細胞に蓄えられます。それが脂肪細胞の大きな役割です。
 長年、脂肪はこの役割のみと思われていましたが、実はそれだけではなく、体に必要な物質を作り血液に送っていることが分かってきました。「たかが脂肪とあなどるなかれ」です。
 ではメタポリック症候群とは、どのような状態になっているのでしょう。大人になると脂肪細胞の数はそう増えませんが、一つ一つの細胞が大きくなってエネルギーを溜め込みます。しかし、それも限度があり、限度を超えるとあふれ出してしまいます。メタボとは、そのような状態であると想像してください。


メタボの原因は、内臓脂肪の蓄積。
内臓脂肪の減量は、食事と運動で。


 では、メタボになるとどのようなことが体内に起こるのでしょうか。
 一つは、インスリン抵抗性と言って、インスリンという血糖を下げる働きをするホルモンが効きにくくなり、血糖上昇を呈し、糖尿病になりやすい状態になります。
 また一つは、脂質異常を呈します。そして、脂肪細胞は種々のホルモンを産生するのですが、この中でもアディポネクチンというホルモンは、動脈硬化を抑制する作用がある数少ないホルモンです。この働きが悪くなるのです。
 その結果、動脈硬化が進行します。実は、最初に挙げたインスリン抵抗性、脂質異常も、結果としては動脈硬化を進行させることになります。そして、虚血性心疾患、いわゆる狭心症や心筋梗塞(こうそく)、あるいは脳卒中。メタボになると、こういった疾患が多くなります。
 働き盛りの人達が、突然、心疾患や脳卒中で倒れる。大変不幸なことです。それを極力減らす。これこそが、メタボがやかましく問題視されている理由なのです。
 では、どのような人が診断されるのでしょうか。内臓脂肪の量は、臍(へそ)レベルでのCTにて計測されます。100cm2以上が基準なのですが、CT検査を、例えば健康診断で全員行なうよりは、もっと簡便な方法でということで、次のように診断基準が定められました。
 ウエスト径が男性・85cm以上、女性・90cm以上でかつ次の内の2項目以上が当てはまる。
@HDL(善玉コレステロール) 値=40mg/dl 未満
A血圧=130/85mmHg以上
BHgbA1c(血糖を表す)値=5.5%以上
 従来、狭心症など動脈硬化性疾患の危険因子として、LDL高値、高血圧、高血糖、喫煙などが指摘されております。それらは、それぞれ独立した危険因子であり治療が大事です。
 メタボの特徴は、血圧、脂質、血糖の異常などが、たまたま重なったのではなく、内臓脂肪が蓄積したことが原因であるということです。つまり内臓脂肪蓄積が上流にあり、血圧、脂質、血糖などの異常が下流にあるととらえてもらえばいいのです。
 内臓脂肪についてもかなり分かってきました。その治療法はというと、そう、内臓脂肪を減らす。これに尽きます。それには、食事と運動が大切です。


急な痩せは脂肪柵胞に危機感を与え
脂肪を燃やさずに溜めようとする。


 食事は量も質も大切です。脂を使った料理法は多く、また美味(おい)しいですが、炭水化物は1gにつき4kcalなのに対して、脂は9kcalと高カロリーであることを忘れてはいけません
ファストフードの摂りすぎは、典型的な脂過多になります。また質においても、ラードなどの動物性よりは植物性のゴマ油などを使用したいです。
 飲み物も注意が要ります。一般に冷たいと甘みを感じにくくなります。冷コーヒー1缶にはスティックシュガー5本半の砂糖が含まれています。できるだけお茶、水にしましょう。
 体内の処理工場である肝臓は、アルコールが入って来ると他の物を放っておいて、まずアルコールの処理をします。ですから度数の高いアルコールを摂りすぎると、つまみとして摂っている物は脂肪として肝臓や腸間膜に溜まってしまうのです。量のみならず、アルコール度数も考えましょう。
 緑黄色野菜や淡色野菜、きのこ類にたっぷりと含まれている繊維質。これは糖、脂質の吸収を遅らせ、脂質の排泄(はいせつ)を促進します。たっぷりと摂りたいものです。またビタミンやミネラル、微量元素も多く含まれるので、できるだけ一日1回は、生野菜を摂る習慣を持ちたいものです。
 燃料を燃やす所は筋肉です。歩くという運動はとても大事です。一日何歩ということもいいです、また階段の上り下りもいいです。スポーツができる環境にいる人は、スポーツで汗を流すこともとても良いことです。筋肉を普段よく使っていると、少しの運動でもエネルギーを消費しやすい体になってきます。
 さて、現在メタボになっている人の参考にしてください。食事と運動で体重を5〜10%下げましょう。3〜6カ月かけてゆっくりと減量してください。急激に痩せると脂肪細胞が危機感を感じて、脂肪を燃やさずに溜めようとします。生活の変化を楽しみながら、健康な自分になることを夢見て続けることが大切です。
 繰り返しますが、皮下脂肪ではなく、内臓脂肪が問題なのです。メタボは、車社会、ファストフード、不規則な生活など、現代社会の抱える複合的な問題から生じています。ぜひライフスタイルを見直して、健全な食生活、適度な運動からトライしてください。