診療室から Vol.30 子供の心のケア
子供の心の傷には愛情と時間が特効薬
阪神大震災当時、長男6歳、次男4歳。
二人の対照的な心理状態を見て対応。


 3月11日の未曾有の東日本大震災から2カ月が経ちました。被害に遭われた方々には心からお見舞い申し上げます。震災を経験した多くの子供達の心のケアについて、今回は記します。
 私自身、平成7年1月の阪神大震災で家が全壊し、その当時長男が6歳、次男が4歳でした。
 あの日、夫と長男は、倒れてきた洋服ダンスとベッドの背当ての問にはまり込んだ形で助かり、次男は、寝ていた上を大きな和ダンスの上半分が飛び越えて落下しました。もう15センチずれていたら、次男は命を落としていたかもしれません。
 子供達はぐつすり眠っていたところを、地震で目覚めた夫と私の大きな声に起こされ、ただならない緊迫感を感じているところに余震が来て、すっかり怖くなったようでした。
 次男は泣き叫び、私にしがみつき、その後も少しの揺れにも驚きました。眠っていても目を覚まし、トイレも一人で行けない状態でした。片時も私達の傍(そば)を離れず、地震という言葉にも異常に反応し、繰り返し繰り返し、潰(つぶ)れた家のこと、脱出するまでのいきさつと失ったおもちゃのことを話しました。
 私は、これはもう当然の反応と受け留め、何度も何度も話を聞き、トイレにもその度につき合い、次男を一人にしないように努めました。また、震災についての話は、子供の前ではなるべくしないようにしました。
 春頃からようやく落ち着きを取り戻したかに見えた矢先、今度は頻尿(ひんにょう)になり、トイレにさらに何度もつき合わされました。その後、夏頃にはそれも治まり、秋頃にはやっと落ち着きましたが、しばらくの間は、トイレに行く時には扉を開けっ放しにしていました。
 次男に対して、長男は泣きもせず、私の手をしっかりと握り締め、崩れた本の山や割れたガラスを踏み越え脱出しました。
その後も、特に、家でも幼稚園でも何の変化もなく、たわいなく皆に地震で家が壊れた話をして廻っていました。
 この話からすると、長男は非常に頼もしく見えますが、私は次男より長男を心配しました。感情をストレートにぶつけて「怖い、怖い」と言える次男は、そうすることでストレスを発散し、経過からしても徐々に立ち直って行くと思われました。
 しかし長男は、自分自身の中で、しっかりしなくては″と頑張っているので、時間が経ってから、何らかの形で表れはしないかと心配しました。
 幸い、私達が長男を気にかけていたことと、4月から入学した小学校の楽しい学校生活のおかげ蔭で、特に何の症状も出ないで済みました。おそらく、学校でも子供達の心のケアについては相当心を砕いてくださったのだと思います。


親や教師は、ただただ傍で寄り添い、
安心感を子供達に与えることが大事。


 今回の東日本大震災でも、子供達に絵や作文を書かせて、心のケアを行なうという話を聞きます。自分から書いて、それで立ち直っていく子もいますが、書きたくない子には、無理に書かせなくても良いと私は思います。本人が望んでいない地震の絵や作文を書くことで、地震の恐怖がフラッシュバックする子もいると思います。
 同じように、実際に経験していない、被災地以外に住んでいる人も、繰り返し、地震や津波のテレビの映像を子供に見せないように気をつけてほしいと思います。また、眠れないなどの症状を表す子供だけではなく、大人でも鬱(うつ)症状で病院にかかる人が増えています。
 話を戻しますが、震災の絵や作文は、書きたい子は書かせて、書かない子は無理強いしないでほしいと思います。阪神大震災の後で、全員に地震の絵を措かせて本にした幼稚園がありましたが、目的を履き違えているとしか思えませんでした。
 絵や作文を書くことでショックを外に出していく子もいれば、別の形でショックを外に出す子供も多いと思います。おねしょをする、頻尿になる、やたら甘える、赤ちゃん返りをする、夜泣きするなど、身体や精神状態に、変化が色々な形で表れます。
 親や教師は、ただただ、そういう子供達に寄り添い、手を握り、常に傍で見守ってもらっているという安心感を子供達に与えるようにすることが大切だと思います。愛情と時間が、子供達の心の傷に対する何よりの特効薬なのです。
 表面的には何も変わりがないように見える子供も、同様にショックは受けているので、数年にわたり何か変化が表れないか気をつける必要があります。先ほど書きましたように、あまり出さない子こそ、きちんと心にかけて見ることが大切です。


人間の優れた「忘れる」という機能で
多くの子供は時問と共に立ち直れる。


 テレビでインタビューを受けていた被災者の女性が、「津波に襲われて逃げて行く時に、次男は小さいから津波を見せなかった。けれども、長男(小学生)には、津波は怖いということを、これから生きて行く上で教えなければならないと思い見せた。しかし、長男に津波を見せたことが良かったのだろうか、何らかの形で心に傷が残ったらどうしよう」と泣いていました。
 そのような大変な時に、年齢に合わせて対応を判断された、スゴイお母さんだなあと思いました。こんなお母さんが傍にいるのですから、長男はきっと大丈夫だと思いました。
 しかし、お母さんが泣いているのは良くないと思います。自分が取った行動に自信を持ち、にこやかに元気に子供達を見守ることだと思います。
 子育てに「これが100パーセント正解である」というものはありません。ましてや、今回のような非常時では、いつもは何でもなくできていることも、まともにできないこともたくさんあります。泣きたいことも一杯あるでしょう。いつも笑顔でなんて、とんでもないと思われるかも知れません。
 ですが、せめて、子供達の前では涙は見せないで、元気なお母さんでいてください。子供は常に親の顔色を見て、自分の喜び悲しみと同じように、いいえ、それ以上にとらえています。親が元気で頑張っている姿を見せて、子供に寄り添ってやることができれば、子供は徐々に震災の恐怖から立ち直って行きます。
 阪神大震災の後も、多くの子供達に心の問題が起きて問題になりましたが、もうすでに多くの子供達は立派な青年となり、大学生や社会人になっています。いまだに震災による心の傷を引きずっている子はほとんどいないと思います。
 肉親を失うほどの大きな傷を負っているような子供は、小児心療医等の本当のケアが必要ですが、たいていの子供は、温かく見守ってやる程度のことで、時間と共に「忘れる」という、人間の持つ優れた機能のお蔭で立ち直れるのだと思います。
 最後に、マスコミの記者が子供にマイクを向けて、その当時の事を子供の言葉で聞き出すニュースコーナーが多く見られました。本当に被災者の子供の心を思うならば、そっとしてやってほしいと残念に思いました。