診療室から Vol.29 災害に対する備え
被災後の共同生活では近隣の絆が強力な味方に
サバイバルと異なる災害時の必需品。
非常時の、必需品は所と時問で変化。


 東北関東大震災で被害に遭われました方々に対し、心からお見舞い申し上げます。また、多くの方が亡くなられました。心より深く哀悼の意を表します。
 平静を少し取り戻されたと思いますが、大規模災害時の備えについて、阪神淡路大震災の体験者として、職業上の立場から、日頃皆さんに心がけてもらいたいことを中心に書いてみます。
 この度の震災で転居を余儀なくされた方々ばかりではなく、異なった場所で人生のスタートを切った人達も、5月になり、そろそろ新しい生活に慣れた頃かと思います。その方々も是非参考にして下さい。
 現代の社会生活の中で、震災時の必需品はサバイバル用品とは異なります。非常時は、場所と時間と共に必要な物は変化します。まずそのことを頭にしっかりと入れて準備して下さい。
 災害は、その規模や程度に差こそあれ、自分と家族の生命の確保として、まずは2〜3日分が必要です。そして最低限の生活から数カ月を経て、以前の生活へと移行します。


必需品は三段階に分けて準備し、
揃えた物は日を決め定期的に交換。


 第一段階は生命の確保です。被災場所から安全な所への避難とその経路です。生命を守るための脱出ですから、発生直後から、1日程度の避難に必要な最低限の物を揃(そろ)えます。
 自己の位置を示すホイッスルや防犯ベル、服薬中の薬とその処方内容、眼鏡(古い物でも可)、水、当座の現金 (特に小銭)、身分を証明する物、三角布かタオル、生理用品、ラジオ、45リットル用の大きなごみ袋(傘や防寒具代わり)、免許証や保険証のコピー、三文判、懐中電灯、携帯カイロなどです。この程度の物は、枕元に一つにして置いてもそれほど大きくなく軽いと思います。
 避難経路は、倒れた電信柱、家の倒壊などを考え、複数経路を確認し、更に試しておきます。
靴も、履きなれた物を1足用意し、外出時もそのような靴の使用を勧めます。
 地震が発生すると、たった2〜3冊の本で戸も開かなくなり室外に出られません。家具の配置も大切です。集合住宅では外までの通路も平静時に確認しておきます。預貯金の口座番号・カード番号は、自分にしか判らないように書き、普段から携帯しましょう。
 近頃は、停電時に自動点灯するコンセント式の懐中電灯も売られています。これは非常時だけではなく、停電時の照明器具としても役立ちます。
 気をつけてほしいのは、荷物は少なく軽くし、あくまでも現代社会の中での避難用品という点です。火災や津波が来なければ、翌日以降、取りに戻れます。サバイバル用品の中には、自分で扱えない物や使ったことのない物、都会ではあまり役に立たない物があります。
 第二段階としては、援助の手が差し伸べられるまでの約3日間の生活用品です。3日間で周りの状況がある程度分かります。それまでは、慌てずデマに惑わされないことが大切です。
 毛布1枚、服・下着、水(一人1日1リットル)、携帯ガスコンロとボンベ3本、缶切り不要の缶詰、レトルト食品、レトルトかアルファー化した米(湿らした使い捨てカイロと一緒にタオルに包むと、パサパサのご飯が冷やご飯程度になる)、消毒用品、濡(ぬ)れティッシュ、食品用ラップなど3日分を目安に用意します。玄関先などの分かりやすい場所に置き、日頃から最低限の準備として揃え、定期的に日を決めて新しい物と常に交換しておくことを勧めます。
 第三段階は、救援・援助の手が差し伸べられ始めた中での生活の自立が必要になってくると思います。寝具、家電製品、着替えの下着、洋服などです。


慢性疾患の人は、「お薬手帳」と
2週間分の薬を避難袋に1入れる。


 今回の震災も神戸の時も、大学病院・市民病院などの地域の中核をなす高度医療機関も被災し、高度医療を施すのが不可能となりました。また開業医も同様に罹災(りさい)し、その機能は落ち、そのため、数日間は外傷者を対象とした一次的な救急診療が中心となりました。
 そこで、避難所での医療活動で問題だったのは、慢性疾患の治療でした。その時まで、自分が何の病気で、何の薬を投薬されていたか知らない人がいました。せめて、自分の罹(かか)っている病名、投薬内容は紙に書いておくことです。つまり、高血圧、心臓病、糖尿病などの持病があり、継続して使用しなければならない薬のある時は、内服薬でしたら、薬品名や薬の説明書、「お薬手帳」の所持を勧めます。
 また、主治医の許可をもらい、2週間分くらいを、絶えず新しい薬と交換して避難袋に入れておいて下さい。それだけのことで、避難所でも市外での避難先の医療機関でも、今までと同じ医療がほぼ保証されます。
 慢性疾患などの治療内容が判らず、一から決め直さなければならない人、手術後の内服薬・外用薬などがなくなり、避難後にそのまま放置して悪化した人や亡くなった人がいました。
 震災直後は、家も傾き、タンスが倒れ、硝子(ガラス)が割れ、ガスが吹き出し、水道管も破裂して洪水のような状態になります。避難する際は、必ずブレーカーを切ります。出火の原因になります。神戸の町もこれで多くの家が焼けました。
 火災は通電すると同時に生じることがあります。大震災時などは、電力会社はすぐには通電しない可能性もありますが、ブレーカーの位置と切り方ぐらいは確認しておいたほうがよいでしょう。
 私は単に、常に水またはお茶2本、牽引(けんいん)ロープ、助手席に金槌(かなづち)と濡れティッシュ、車用携帯充電器などを置いています。また16年前に、私が持ち出して役立った物に、濡れティッシュ、紙コップ、紙皿、各種の番号、ロープ、シート、ガムテープ、スコップがあります。
 近隣では連携し、車のジャッキでがれきを持ち上げて救助したり、簡易トイレを作っていました。また、井戸を災害時用に使えるようにしていた人がいました。その地区は大変助かっていました。やはり、多くの命を救いその後の共同生活で、近隣の絆(きずな)が強力な味方になりました。
 現在、自宅の装備品は、無洗米2キロ、水2リットルは人数分、ラーメンや菓子やレトルトカレーは一人2〜3食分、マスク、乾電池、アルコール、ラップ、濡れティッシュ、ラジオ付き電池式蛍光灯などです。2年前ですが、釣り用の防水LED集魚照明(電池式)を見つけました。意外と明るく、12時間ほど持続するのでコップに立てかけて使えます。
 携帯電話がこの16年で普及しました。非常に役立つ物です。45しかし、圏外になっている時に電源を入れ放しにすると、電池の消耗が激しくすぐに切れます。災害時には、時々スイッチを入れて電池を大切に使いましょう。
 とにかく、普段から防災意識を備え、正しい知識を持ち、健康に留意し、他を思いやることのできる豊かな心を養うことが何よりも大切であると痛感しています。