診療室から Vol.27 飛蚊症
「飛蚊症かな?」と受診する時は 自身でのバイク、串の運転は禁物
白い紙を見て、黒いい蚊が飛び出したら
それは「飛蚊症」。その原因には4つが。


 「黒い蚊のようなものが目の前を飛んでいるのが見える」と、診察に来られる人がいます。これは 「飛蚊症(ひぶんしょう)」と呼ばれる症状です。今回はこの飛蚊症についてです。
 飛蚊症は、読んで字の通り、眼の前を蚊のようなものが動いて見える現象です。しかし実際には蚊がいるのではなく、黒や灰色の点状、糸くず状、ドーナツ状のものが浮遊しているように感じるのです。これらは、白い壁や紙、青空といった、明るい所を見た時にはっきりと見え、眼を動かすと眼の動きについて来ます。
 では、なぜこのようなことが起こるのでしょう。眼の中には網膜があり、その前にはゼリー状の硝子体(しょうしたい)があります。何らかの原因で硝子体に濁りが生じると、その影が眼の底のフィルムの網膜に映り種々の形に見えるのです。濁りの原因となるのには、主に次の4つがあります。


加齢が原因の場合は病とはいえないが、
他の3つの原因では失明に至ることも。


 @加齢による硝子体の変化
 子供の頃にゼリー状だった硝子体は、40歳頃から加齢により徐々に液化します。また高度の近視の人は眼球が長い傾向があ
り、普通の人より早く生じるといわれています。
 硝子体は液化すると、硝子体を作っている線維が、蛙(かえる)の卵状や糸状、ゴマ塩状の影を作り、それがまるで眼の中で蚊が飛んでいるように見えるのです。
 また、この硝子体を包んでいる硝子体膜に穴が空き、網膜からオブラートのような硝子体膜が剥(は)がれて(後部硝子体剥離(はくり))影を作ったり、その穴がサランラップに空けた穴のように、光が当たるとドーナツ状の影を作ったりします。
 自覚は少ないのですが、稀(まれ)にコレステロールの結晶様なものが認められることもあります。また、母体内で胎児の眼球が作られる時の、血管などの組織の名残が濁りになって見えることもあります。
 しかし、この程度の変化は病とはいえません。正常な眼にも起こる症状で、進行もないので「生理的飛蚊症」といいます。ところが、硝子体膜が剥離する時に、約10%の人に網膜円孔・裂孔を生じます。これは後で述べますが、重大な病気に進行します。
A硝子体出血
 硝子体出血は、糖尿病・高血圧・腎臓病などの全身疾患のために網膜の血管が脆(もろ)くなって被れ、その出血が硝子体中に流れ込んだ時に生じます。また、外傷で眼底出血が起こり、その血液が同様に流れ込むと生じます。網膜の静脈血栓症や脳出血などの病気にも合併して発生します。
 これらの症状が、日中起きている時に発生すると、「墨を流したような」 「絵の具を水に落としたような」「吹き上がるような」「赤いカーテンのような」と表現する患者さんが多くいます。しかし、これが寝ている時に生じますと、程度により、かすみ、黒い影(血のかたまり)、赤い濁り、視力の低下などを訴えます。
 これらの場合、出血量が少なければ自然に吸収しますが、多い時は手術で出血を取り除きます。また、出血した部位の周囲を、レーザーで光凝固させるという治療もあります。
Bぶどう膜炎
 ぶどう膜炎は茶目(虹彩(こうさい)・脈絡膜など)の炎症です。原因は眼の特殊なアレルギー反応やカビなどの真菌、細菌、ウイルスの感染などにより起こります。炎症が生じると、白血球や血漿(けっしょう)成分が硝子体中に出て来るために濁りを生じ、ベール状に曇って見えたり、雪玉のようなものが見えたりします。
 治療法は内服と点眼が中心ですが、色々な手術後などに生じたぶどう膜炎は、緊急手術を必要とすることがあります。
C網膜裂孔、網膜剥離
 網膜は、硝子体剥離、網膜出血やその他の原因で穴が空き、そこから網膜の下に水が廻り込むことによって剥がれることがあります。
 この時、網膜が元あった所から剥がれてしまうことで失明する場合もあります。初期症状としては、黒いものが急に増えたり、稲光のようなものが見えた後に飛蚊症が生じたりすることが多くあります。
 症状が進むと網膜が元の位置からずれて行くために、蛍光灯の色が紫色などに見えたりし、その後、視野の暗い部分(視野の欠損)がどんどん拡がります。放置すると、失明に至る重大な病気となります。
 この病気は多くの場合に飛蚊症が先行しますが、生じた時点では、網膜には円孔や裂孔があるだけで、網膜剥離にまで進んでいないことが多くあります。
 その状態であれば、通院して、レーザー光線で網膜光凝固をほどこし、空いた穴の周りを焼き固めることで進行を止めることができます。しかし、網膜剥離が生じ、視野欠損が認められますと、病院での入院手術が必要になります。


予防法のない「飛蚊症」ではあるが、
若い人でも、2年に1回は、検診を。


 以上のように、飛蚊症は網膜剥離、ぶどう膜炎、硝子体出血などのように、失明にもつながる病気のこともあれば、放置しておいても視力に全く関係のない場合もあります。
 飛蚊症が生じたらすぐに眼科に行って下さい。この区別は眼科でつけてもらうしかありませんので、飛蚊症を自覚したら、ただちに眼科で瞳(ひとみ)を開く目薬(散瞳薬(さんどうやく))をさして、何回か詳しく検査をしてもらって下さい。
 生理的飛蚊症ならば治療はありませんので様子を見ることになります。この症状は消えませんので、気にしないようにして下さい。また、飛蚊症にならないための予防法はありません。
 しかし、強い近視の人は、硝子体の液化変性が人によっては強く起こります。また、生まれつき網膜の薄い人も多くいます。自分では判断せず、眼鏡を作る機会などを利用して、若い人でも、2年に1回くらいは定期的に眼科を受診したほうが良いでしょう。
 また全身疾患の内、1000万人以上が罹(かか)っている糖尿病は、コントロールが良くても、5〜7年目くらいから網膜症が起こって来ます。血糖値が良くなっても、網膜症が起こることがありますので、眼底検査を年に1〜2回は受けて下さい。
 C型肝炎のインターフェロン治療中の人も、薬の副作用で網膜症が起こることが知られています。必ず眼底検査を受けて下さい。そして、眼の前を飛んでいる虫の数が急に増えたり、形が変わったり、視力が落ちた時には、必ず詳しく診てもらって下さい。
 最後に、眼底検査をする時に使用する散瞳の点眼薬は、たいてい 「ミドリンP」という点眼薬を使います。この点眼薬は数時間作用し、瞳孔が開くために、その間ピントが合わなくなり、まぶしくて見にくくなります。
 受診する場合は、バイクや自動車には乗って行かないようにして下さい。検査を受けられないか、あるいは置いて帰ることになります。早期発見、早期治療が大切です。