診療室から Vol.26 脂肪肝
特効薬がない脂肪肝には生活習慣の改善が特効薬
食生活の欧米化、運動不足などで
非飲酒の女性、子供にも脂肪肝が。


 皆さんは、現在行なわれている特定健診の検査項目の中に、肝機能検査が含まれているのをご存じかと思います。これは、脂肪肝の早期発見のためです。
 脂肪肝というのは、その名の通り、肝臓に脂肪が溜(た)まっている状態です。正常の肝臓内には4〜5パーセントの中性脂肪がありますが、それが10パーセント以上になった状態を「脂肪肝」といいます。
 その原因には、主に肥満・アルコール・糖尿病があります。今や国民の7人に対して1人の割合で脂肪肝があるといわれ、成人男性の10パーセント、女性の3パーセントに認められています。
 脂肪肝のごく初期には自覚症状もなく、血液検査で肝機能異常を認めることもありません。しかし、脂肪肝を放置すると慢性化し、次第に肝細胞の炎症を引き起こし、肝硬変からさらには肝ガンへと進行します。恐ろしいのは、肝硬変にならなくても、肝ガンが発生するケースがあることです。
 この場合、以前から問題になっていたのが、アルコール性です。毎日お酒を飲む人は、たいていの場合、脂肪肝になります。ところが、最近問題になっているのは、非アルコール性の脂肪肝が増えていることです。肥満の人はもちろん、アルコールも飲まない、それほど太ってもいないのに、脂肪肝になっている人が非常に増えています。ある調査では、肥満でない人の5人に1人が脂肪肝になっているという報告もあるようです。
 脂肪肝は、超音波検査で肝臓が白く光って見えるので、容易に診断がつきます。私は今までに、肝臓が白く光っているにもかかわらず、肥満でない人を何人も見たことがあります。
 これも、食生活の欧米化による糖質、脂質の摂(と)り過ぎや運動不足が原因であり、生活習慣病であるメタポリック症候群の内臓脂肪の増加を示す、一つの表現型といえます。
 最近は、若い女性が急激なダイエットにより、体内のたんばく質が不足して脂肪が排出されなくなり、肝臓に溜まることによって発症するケースも増えているようです。また、小児肥満も増加しているため、脂肪肝の子供が増えていることも問題です。


初期の脂肪肝は生活習慣の改善で
正常に戻せるので、早めの対策を。


 非アルコール性の脂肪肝が慢性化した状態を、非アルコール性脂肪性肝疾患・NAFLDといいます。またこれが何年も続いて肝細胞に炎症を来した状態を、非アルコール性脂肪性肝炎・NASHといいます。NASHの罹患(りかん)率は、成人の1パーセント超で、約150万人と推定されています。
 40歳代後半から50歳代の人でメタポリック症候群になっている場合は、NASHが隠れているといっても過言ではありません。肥満度・BMIが25以上の肥満の人の6〜7割がNAFLDの範囲に入る脂肪肝であり、そのうちの2割がNASHといわれています。
 脂肪肝は20〜30年してから肝硬変になりますが、NASHは10年くらいで2割が肝硬変になるといわれています。また、他の生活習慣病である、高血圧、糖尿病、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群などを合併していると、脂肪肝からNASHになりやすいことも分かっています。
 初期の脂肪肝やNAFLDの状態では、生活習慣を改めれば正常な肝臓の状態に戻すことも可能ですが、NASHから肝硬変になってしまうと、たとえ生活習慣を改善したとしても手遅れで、肝臓を正常に戻すことは不可能になります。ですから、病気の進行しないうちに、対策をとることが非常に大切です。このようなことから、国策として特定健診が始まったわけです。


治療には、和食中心の食事と
長時問かけての歩行や水泳を。


 脂肪肝の治療は、とにかく食事療法と運動療法で、肥満の人は減量を目指します。成人の場合では摂取カロリーは1500〜1600カロリー程度にします。和食中心の食事にし、低糖質、低脂質で高カロリーな動物性食品を控え、魚介類などの良質のたんばく質や豆類、ゴマ、野菜、海藻、きのこ類などの植物性食品を多く摂るようにして下さい。
 非アルコール性・アルコール性にかかわらず、禁酒をします。どうしても無理な場合は、休肝日を週に1〜2回設けたり、一度の飲酒量を極力少なくして、コップ2杯までの節酒を心がけます。
 アルコール性のやっかいな点は、アルコール依存症になっている場合です。私の患者さんでも、肝機能の悪化によって入退院を繰り返している人がいます。そういう人に禁酒を勧めても、ほとんどできません。
 アルコール依存症の人の多くは、精神症状を合併する人も多く、家庭内暴力などの原因になって、家族が因っていることも少なくありません。
そのような場合は、精神科医やカウンセラーと一緒になって家族ぐるみでの治療が必要になります。最近では、断酒会やアルコール依存症患者や家族の会もあるようです。しかし、現状ではまだまだそのような会が少なく、対策が不十分なのが、今後の課題といえます。
 運動療法は、短時間で激しく汗をかくようなものでは脂肪は燃焼しにくいので、長時間の歩行や水泳など、長く続けられるものがお勧めです。エスカレーターやエレベーターを使わずに階段を使うとか、歩く時に普段よりも大きく腕を振って少し速めに歩くというところから始めてみましょう。
 両足を肩幅に開いて、お尻を下げるように、両膝(ひざ)をゆっくりと90度に曲げ、ゆっくりと膝を伸ばすというスクワット運動をするのも良いでしょう。両膝を曲げる時に、膝が足先よりも前に出ないようにするのがコツです。両腕は肩からまっすぐ前に伸ばすか、慣れてきたら頭の後ろで組みます。何回かできるようになったら、少しずつ回数を増やしていきます。1カ月に1キログラムくらいの減量が理想で、3キログラム程の減量で、肝臓の状態はかなり良くなります。
 脂肪肝に対する特効薬は、今のところありません。高血圧、糖尿病、脂質異常症などを併発していれば、それらに対する薬剤を併用します。しかし、いずれも生活習慣病ですから、まずは日ごろの生活習慣を改めることが先決です。家族全員で健康に良い食習慣を身につけるようにして下さい。