診療室から Vol.23 肺ガン
肺ガンの予防には 禁煙に勝るものはなし
夫が1日20本以上のタバコを吸うと
非喫煙の妻の肺ガン死亡率は約2倍。


 人間は誰しも、原因は異なるものの死を迎えます。その病気による死因を見てみますと、1950年までは結核が一番でしたが、その後脳血管疾患が増え、1981年まで、脳血管疾患がトップでした。そして現在はガンがその座を奪い、今なおガン患者は増え続け、中でも肺ガンで亡くなる人が増大しています。
 日本はもともと胃ガンが多かったのですが、早期発見、早期治療で減少し、1990頃には男性は肺ガンが1位となり、女性も同様の傾向で1998年に1位になりました。
 2003年の肺ガン死亡者数は、男性・4万1701人、女性・1万5086人で、ガン死亡の約2割を占めています。そして今年は約10万人に増加し、10年後の2020年は12万人を超えると予測されています。
 肺ガンの特徴の一つは、他のガンと比較して死亡率が高いことです。この面において、生存率を上げるため、昨今の薬物の開発は目覚ましいものがあり期待されています。しかし何よりも、肺ガンそのものを減らすこと、次に早期発見が大切なことは言うまでもありません。
 結核や脳血管障害による死亡が減少したのは、治療方法の進歩、早期発見の効果、生活改善などによって病気そのものが減少したためです。これは、肺ガン死亡率を下げることにもそのまま当てはまります。
 肺ガンの発生を下げる、これを「1次予防」と言います。そこで最も重要なのは、禁煙です。
面白いデータがあります。現在の70歳代の一部の年代は、肺ガンによる死亡者数が抑えられているのですが、その原因を調べてみると、第二次世界大戦直後、極端なタバコ不足の時に10代だった人達に一致します。喫煙の減少が肺ガンの発生を抑制したものと考えられます。
 喫煙者は非喫煙者に対し、肺ガンで死亡する率は4・5倍とされています。特に若い時から吸い始めた人や、本数の多い人ほどその確率は高いとされています。これもかなり周知されてきましたが、受動喫煙の害もはっきりしており、夫が1日20本以上喫煙する非喫煙者の妻の肺ガン死亡率は約2倍です。
 昨今、病院、公共施設内、駅のホームなど、禁煙が義務づけられている場所が増えています。
また10月1日、タバコが値上がりしました。禁煙するには絶好のチャンスです。思い切って止(や)めましょう。禁煙後5年未満の肺ガン死亡の危険性は非喫煙者の2倍程度ですが、5年以上では1・5倍程度まで危険性は低下することも分かっています。


肺ガンは、症状が出てからの受診では
多くが進行ガンになっているのは事実。


 ガンに罹(かか)ったとしても、早期に発見すれば治癒率はぐんと上昇します。肺ガンも同様です。これが「2次予防」と言われ、無症状のうちに、検診で早期発見をすることです。肺ガンの場合、症状が出てから病院を受診して診断された時には、進行していることがほとんどであるからです。
 ただ、従来の胸部]線を中心とした検診方法は現在見直されています。]線検診で発見された肺ガンのうち、早期の割合は10〜50ですが、より早期肺ガン発見のため、1993年より低線量ヘリカルCT検診が試みられています。これによると発見された肺ガンの7〜8割が早期肺ガンとのことです。この検診は、経費、被曝(ひばく)線量などの課題もありますが、現在システムが進歩しつつあるところです。
 次の「3次予防」は、治療薬の向上です。戦後の結核による死亡が劇的に減少したのは、まさしく、複数の優秀な抗結核薬が発見されたことによります。
 肺ガンにおける治療薬の昨今の話題は、分子標的薬剤と言い、ガン細胞の遺伝子、タンパクをターゲットにした、比較的正常な組織にやさしい治療薬が開発され、使用されてきたことです。
しかもこれらの薬が効きやすいタイプ、効きにくいタイプが、前もってある程度、ガンの種類、遺伝子検索などで類推されるようになり、より効果的な治療が可能となりつつあります。
 症状が現れた時、進行ガンになつていることが多いのは事実です。だからこそ、もしも疑うべき兆候があれば、早めに呼吸器内科を受診することです。
 症状とは、咳(せき)、痰(たん)(特に血痰)、しゃがれ声、胸痛、顔面や頸部(けいぶ)のむくみ、皮膚の異常(湿疹(しっしん)など)、全身倦怠(けんたい)感などです。これらの症状は肺ガン以外でも見られるものです。また、逆説的ではありますが、できればこれらの症状が現れる前段階で、具体的には検診で発見されることが望まれます。理由はより早期発見に繋(つな)がるからです。


喫煙者自身はもちろんのこと、愛する
家族の幸せをも考え、勇気ある禁煙を。


 診断のための検査について触れておきます。画像検査は重要で、まず胸部写真、疑われればCTを振ります。その他採血、喀痰(かったん)検査などを行ないます。現実的にはCTで疑わしい病変があるかどうかを判断することが多いです。さらに疑わしい場合はPET(ポジトロン断層法)検査をします。ちなみにCTでは10mm大に対して、PETは5mm大の腫瘍が見つけられます。
 PETとは、ガン細胞は多くのグルコースを取り込むという性質を利用しています。PETに使用するFDGという物質はグルコースと同様に細胞内に取り込まれることから、視覚で判定されます。肺ガンであるという決め手は、ガン細胞を見つけることで、喀痰細胞診、あるいは気管支ファイバーと言って気管支に管を入れて、疑われる場所の組織を採取して調べる検査を行なうことがあります。
 肺ガンにはいくつか種類があります。小細胞ガン、腺(せん)ガン、扁平(へんぺい)上皮ガン、大細胞ガンなどですが、治療においては小細胞ガン、非小細胞ガンに分けます。
 小細胞ガンは進行が早く手術適応なケースは少ない反面、化学療法、放射線療法によく反応します。小細胞ガン以外のガンは、早期であれば積極的に手術しますが、化学療法、放射線療法への反応は、一般的に小細胞ガンほどではありません。しかしながら化学療法が選ばれることが多く重要視され、薬も開発されています。以前よりは副作用の少ない薬剤、また先述した分子標的薬剤など、その例になります。
 さて、医療とは、疾患、今回なら肺ガンそのものを取り除く、あるいは縮小させることのみではありません。疼痛(とうつう)、倦怠感など様々な苦痛症状を和らげる緩和医療も大事な医療です。
 ガンが進行して、もはや積極的な治療が施せない場合のみならず、最近はむしろ、診断後、抗ガン治療をする上で早期に支えていくという位置付けとなってきています。また、末期の患者さんには、むしろ積極的にモルヒネなどの使用が勧められています。
 肺ガンについて、予防から治療まで概略を記しました。最後に、肺ガンの予防には禁煙に勝るものはありません。これを心に銘記して下さい。自身はもちろんのこと、愛する家族、周囲の人達の幸せも考え、勇気ある決断を持って禁煙に臨んでほしいものです。