診療室から Vol.20 食中毒
予防の三原則は微生物を 付けない・増やさない・やっつける
多くの細菌性食中毒は下痢を伴うが、
細菌により発症に数時間〜数日の差が。


 夏になると食中毒の発生が多くなります。それは食中毒の原因となる多くの細菌が夏を好むためですが、食中毒は夏だけではなく、ウイルス性など、冬に多いものもあります。
 食中毒は、細菌やウイルスなどの微生物によって起こり、食中毒の大半を占める【細菌性食中毒・ウイルス性食中毒】、食品に混入した洗剤や農薬などの化学物質による【化学性食中毒】、そして毒キノコやフグ毒などによる【自然毒性食中毒】、その他、アレルギーや寄生虫にょるものなどに分類されます。
 まずは細菌性食中毒から説明しますと、食中毒として感染性胃腸炎を引き起こす代表的な細菌には、サルモネラ、黄色ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、腸管出血性大腸菌、病原性大腸菌、カンピロバクターなどがあります。
 サルモネラによる食中毒は発症件数の多いものの一つですが、主に鶏卵などを介して感染します。黄色ブドウ球菌は人間の手指からも検出されるもので、調理者の手のけがなどを介して感染します。腸炎ビブリオは、普段は海水中に生息している菌で、主に魚介類を介して感染します。
 腸管出血性大腸菌は、10数年前に大流行したO−157が有名ですが、強い毒素を放出し、腎障害(溶血性尿毒症症候群)などを引き起こし、生命を脅かす危険な菌の一つです。
 大腸菌はもともと健康な人の便の中に含まれますが、中には色々な病原性因子を持つものがあり、それらを病原性大腸菌と呼びます。カンピロバクターは主に、食肉を介して感染します。生焼けの肉類(特に鶏肉)の摂取などで起こります。
 細菌性食中毒にかかった場合、ほとんどの例に下痢症状が出ます。下痢をした場合は、感染性腸炎、食中毒を疑ってみる必要があり、診断には症状が出る前の飲食の状況や、海外渡航歴の有無などが重要になってきます。
 細菌の種類によっては、食品を口にしてから症状が出るまでの時間、また症状の激しさや発熱の有無など、微妙に症状が異なってきます。黄色ブドウ球菌では、食後3時間程度で症状が出ます。例えば、運動会で昼食を摂ると、帰る頃に症状が現れるという具合です。
 一方、カンピロバクターは3〜5日間かかりますので、原因菌は数日前の食事に含まれるわけです。原因となる菌の確定には、糞便(ふんべん)中の細菌検査を行ないますが、結果が出るまで数日を要すため、その間は病歴、症状などから原因菌を想定しての治療が必要となる場合もあります。
 いずれにせよ、下痢への対処が重要です。激しい下痢は脱水症状を引き起こします。口から水分や電解質の補給ができない場合は、点滴治療も必要です。
 下山刑をしている時、むやみに止痢薬を用いると、腸管内容物の排泄(はいせつ)を遅らせ、症状を悪化させる恐れがありますので注意が必要です。場合によっては適切な抗菌薬の投与も必要です。


冬に多い食中毒の代表はノロウイルス。
汚染された貝類は十分な加熱が必要。


 次に、冬に多いウイルス性の食中毒について説明します。
 昨年の冬、インフルエンザとともによく聞かれた、ノロウイルスがその代表的な原因ウイルスの一つです。
 さて、ノロウイルスとはどんなウイルスでしょうか。今から40数年前、アメリカの小学校で集団発生した急性胃腸炎の子供の糞便から新しいウイルスが検出され、その町の名前をとって「ノーウォークウイルス」と名付けられました。その後次々と発見された類似のウイルスを、その形状から小型球形ウイルスと呼ぶようになりました。
 急性胃腸炎をおこす小型球形ウイルスは、遺伝子を詳しく調べると2種類あります。そのうちの一つ、ノーウォークに似たウイルスが平成14年に「ノロウイルス」と命名されました。その名が付いて、まだ日の浅いウイルスです。
 ノロウイルスは食品を調理する人の手指や食品などを介して、経口で感染し、嘔吐(おうと)・下痢・腹痛などの症状を引き起こします。ノロウイルスに汚染された二枚貝を加熱不十分な状態で食べると感染することがあります。
 平成20年の日本での食中毒発症患者約2万4000例のうち、ノロウイルスによるものは1万1000例と半数近くを占め多くの人が感染しています。
 食中毒として発症する例のほか、感染者の吐物や糞便には大量のウイルスが含まれており、そこから人の手などを介して二次感染する場合、人から人へ飛沫(ひまつ)感染などで感染する場合もあり、感染の拡がりを防ぐことが大変難しい感染症です。
 症状は比較的軽症で終わるものが多いのですが、小さな子供やお年寄りなど抵抗力の弱い人では重症となる場合もあり、注意が必要です。有効な抗ウイルス剤はなく、脱水対策に輸液(点滴)などの対症療法を行なうことになります。1年を通して発生しますが、多くみられるのが11月から翌年の1月くらいまでです。


あらゆる段階で潜む食中毒の危険。
簡単な予防方法の習慣で健康管理。


 食中毒というと、飲食店や仕出し弁当などが原因になると思われがちですが、家庭内でも発生しており、毎日の調理においても注意が必要です。家庭における食中毒の発生を予防するために、WHO(世界保健機構)が発表している「食品をより安全にするための5つの鍵(かぎ)」を簡単に紹介します。
@「清潔に保つ」
 正しく手洗いを行ない、調理器具の洗浄、消毒をする。また台所の食材をネズミ、昆虫、微生物から守ること。
A「生の食品と加熱済み食品を分ける」 
 生の食材には危険な微生物が含まれていることがあるため、まな板や包丁などの調理器具も分けて使用する。
B「よく加熱する」
 適切に加熱することで、微生物の多くは死滅する。ひき肉や、大きなかたまりの肉類などは、中まで十分加熱する。また調理済みの食品の再加熱は中途半端にならないよう注意する。
C「安全な温度に保つ」
 食品を室温で保存すると、微生物が急速に増える可能性がある。5℃以下、もしくは60℃以上の場所で保存すると、増殖を抑えることが可能。「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」した状態で食す。
D「安全な水と原材料を使う」
 日本ではあまり心配はないが安全な水を使うこと。新鮮で良質な食品を選ぶこと。生で食べる野菜や果物はよく洗い、消費期限を過ぎたものは食べないこと。
 食中毒予防の三原則は原因となる微生物を「付けない・増やさない・やっつける」です。家庭での食生活にあたっては、食品の購入から、家庭内での保存、食材の下準備、調理、食事、残った食品の扱いまで、あらゆる段階で食中毒の危険が潜んでいますが、毎日の習慣として簡単な予防方法を行なうことで、未然に防ぐことができます。日々、怠りなく家族の健康管理に努めていきたいものです。