診療室から Vol.17 口腔内乾燥症
神秘的な唾液の働き 口の状態は健康の目安
口の中の乾燥は虫歯等の誘因に。また
唾液の分泌量減少は囁下障害の困に。


 運動をした後や入浴後、また風邪などの熱性疾患の時などに、口の中の渇(かわ)きを感じるという人が多いのではないかと思います。口腔(こうくう)内乾燥とは、その名のとおり口の中や咽(のど)が渇くことですが、何らかの原因で、唾液(だえき)の分泌量の減少や厨只の変化、過剰な口腔内水分の蒸発などにより、口の中が渇いている状態が続くことを、口腔内乾燥症といいます。
 成人が全身の機能を正常に保つには、体重の1/20、約2〜2・5リットルの水分が必要といわれています。そのうちの1〜1・5リットルは食事などから摂れますが、残りの約1リットルは他からの補給が必要です。
 口の中の乾燥は、虫歯や歯周病の誘因となります。すでに虫歯や歯周病のある場合は悪化しますし、入れ歯の吸着が悪くなったり、入れ歯による傷ができやすくなります。
 また、唾液の分泌量が少なくなると、舌の表面に汚れが付きやすく、舌苔(ぜったい)に変わりやすくなります。中には舌がもつれうまく喋れなくなる人もいます。さらに口唇は乾燥のためにひび割れし、口角炎を引き起こします。
口臭もきつくなります。ひどい場合は、嚥下(えんげ)障害、味覚障害をきたすこともあります。


唾液には四つの働きが。口にとっても、
全身にも、大切な役割を果たしている。


 唾液の働きの一つは溶解作用です。味物質を溶解し味覚を促進させる作用をします。つまり、食べ物は、唾液によって潤った舌で味わい、丈夫な歯で磨り潰(つぶ)します。この噛(か)む時に唾液が多量に出て食べ物と混ざり合い、食べ物をペースト状にすることにより、スムーズにし飲みやすくします。
 唾液には、でんぷんを消化するアミラーゼ、タンパク質を分解するプロテアーゼなどの酵素が含まれています。唾液と混ざり合い、磨り潰しが十分に行なわれることにより、これらの酵素が活躍し、その他の消化器官(胃や腸など)の負担を軽減する役目を果たしています。
 二つ目は洗浄・抗菌作用です。昔から、唾(つば)には殺菌作用があるといわれていましたが、口の中は自浄作用といい、自らきれいに保つ力があります。その力が唾液です。唾液中のリゾチーム、ラクトフェリンなどには抗菌作用があります。その他、ペルオキシターゼは活性酸素に作用し、発がん性物質の毒性を薄める効果があるといわれています。
 また免疫グロブリン(主にIgA)は細菌の細胞への付着を防止し、口腔内に侵入したウイルスを中和する作用があります。これは風邪やインフルエンザの予防にもなります。
 三つ目はpH緩衝作用です。通常、私達の口の中はpH7の中性を保っていますが、食物を食べた後の口の中は、細菌が炭水化物を代謝することで産生された酸によって、急激にpH3〜5に下がり酸性になります。そこで、その食後の酸性の環境を中性に戻していくことも唾液の大切な働きです。唾液の緩衝作用によって再石灰化のプロセスが進行してpHが戻るのです。
エナメル質が溶け出す臨界pHは5・5〜5・7以下です。もしも、口の中が唾液で中和されずにこのような酸性状態が続くと、歯の表面が溶ける脱灰(だっかい)が起き、虫歯の原因となります。
 四つ目は保護作用です。唾液は、歯の表面に被膜を作り虫歯を防ぐ、歯肉を保護し歯周病、口内炎を予防するなどの作用をしています。また、入れ歯の接着剤としての一役も担っています。特に総入れ歯は、顎堤(がくてい)といわれる入れ歯と接する粘膜と総入れ歯との間に、一層の唾液の層が介在することにより安定します。噛み合わせの悪い義歯は、歯茎や口の中を傷つけます。唾液はその予防も行なっています。
 このように、唾液は、口にとっても、また全身にとっても、とても大切なものであることが分かっていただけたかと思います。


高齢者に多く見られた口腔内乾燥症が
最近は若者にも増えている。その原因は?


 口腔内乾燥症は更年期を迎える頃に急増し、高齢者に多く見受けられる病気です。ところが最近は、咀嚼(そしゃく)回数の少なくなった若年層や口呼吸の人の増加により、若者にも増えています。
 では、口腔内乾燥症に罹(かか)るとどのような症状があるのか挙げてみましょう。
@口や咽が渇く、ネバネバした感覚がある。
A食べ物が飲み込みにくい。特に煎餅(せんべい)、クッキーなどの水分の少ない食べ物が、水なしの状態では食べずらい。
B舌や口に違和感やひりひりとした痛みを感じることがある。
C味が判らない。
D舌が絡んで喋りにくい。ずっと喋っていると、口の中や 口角に泡が出る。
E虫歯や歯周病になりやすい。
F知覚過敏が起こりやすい。
G入れ歯が合わない。すぐに傷ができる。
H口臭が気になる。
 以上の項目で気になることはありませんか? 自己診断してみて下さい。
 口腔内乾燥症の原因は、生活習慣病、全身性代謝性疾患、糖尿病、薬の副作用などさまざまです。特に全身性代謝性疾患(腎(じん)疾患、糖尿病、関節リウマチ、シューグレン症候群、脳血管障害など)は、疾患に対する治療に加え、口腔ケアを徹底し、口の乾燥を防ぎ、全身の抵抗力が落ちないように心がけることが必要です。
 生活習慣では、アルコールの過剰摂取、口呼吸、口腔周囲筋と首の筋肉の筋力低下、加齢、喫煙、不規則な食生活と食事形態や精神的ストレスが加わることによって、自律神経がうまく働かなくなり唾液の分泌が低下します。特に飲酒と喫煙、口呼吸は唾液を蒸発させ、口の乾燥をひどくします。
 また、無理なダイエットによる食事制限や食べ物をよく噛まない、喋らないことが続いた場合は、舌筋などの口腔周囲筋、首周りの筋肉が機能低下を起こすため、唾液の分泌も減少していきます。唾液腺(せん)の近くにある筋肉が活性化するとリンパや血液の流れがスムーズになり、一緒に唾液の分泌も良くなります。唾液腺を刺激することはとても大切です。
 首のストレッチ、口腔周囲筋の強化体操(顔面体操)やマッサージは効果がありますので、日頃から心がけてみてはいかがでしょう。そして何よりも有効なのは、規則正しく楽しく食べ、よく噛むことなのです。
 最近の報告では、日本人に多いといわれるピロリ菌は、口の中(特に歯周ポケット)で育つことが明らかになっています。
唾液中の成長ホルモンであるパロチンは老化防止の作用があり、アルツハイマーを防止するのではないかとい、報告もあります。
 まずは口の中をきれいにし、唾液をたくさん出すこと、少しでも口腔内乾燥を感じたら、生活習慣を見直し、全身の状態を見極めることが大切です。早期に受診し指導を受けること。顔面の体操やリンパのマッサージの仕方を、きちんと指導を受けて行なうことが望ましいです。