診療室から Vol.15 子供のメタボリック症候群と糖尿病
メタボリック症候群の治療は子供本人が自覚することから
子供の肥満は30年問で約2倍に増加。
肥満のまま成長すると生活習慣病に。


 「メタボリック症候群・メタボリックシンドローム」という言葉を、おそらく皆さんはご存じだと思います。しかし、子供(6歳〜15歳)についてもこの診断基準のあることを知っている人は、そう多くないのではないでしょうか? 子供の肥満は、この30年間で約2倍に増えました。今までメタボリックシンドロームと言えば、中高年の生活習慣病と思われていました。しかし、大人と同じように、子供でも内臓に脂肪がたまり、問題となる肥満が見つかっています。とくに中学生男子の肥満では、その15%以上がメタボリックシンドロームであると言われています。
 内臓に脂肪がたまりますと、血液中の糖を調節するインスリンの働きがにぶくなります。そのために、血糖値や中性脂肪、血圧が上昇して動脈硬化が進み、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などを引き起こしやすくなります。このような状態がメタボリックシンドロームです。
 子供の場合では、高血圧や動脈硬化まで進んだ例はまれですが、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝や、耐糖能の異常(糖尿病)は認められています。このような状態のままで大人になれば、生活習慣病へまっしぐら……ということになります。
 そこで、その危険性を少しでも早く発見し減らすために、子供のメタボリックシンドロームの診断基準が厚生労働省の研究班から、平成20年3月に発表されました。基準項目は次のようなものです。
【肥満度】
へその高さの腹囲を測定し、小学生は75cm以上、中学生では80cm以上、あるいは、腹囲(cm)÷身長(cm)が0・5以上。
【中性脂肪】
 中性脂肪 (TG) が120mg/dl以上、またはHDLコレステロール40mg/dl以下。
【血圧】
 収縮期血圧(上)が125mmHg以上、または拡張期血圧(下)が70mmHg以上。
【空腹時血糖値】
 空腹時血糖が100mg/dl以上。
 肥満度を表す腹囲基準に該当した上に、中性脂肪、血圧、空腹時血糖値の3項目のうち、2項目以上が当てはまる場合がメタボリックシンドロームと考えられます。
 メタボリックシンドロームは、大人の場合は、飽食、ストレス、運動不足による過栄養のために内臓脂肪が蓄積して起こると言われていますが、子供でも、原因は同じだと思われます。
 高カロリーのカレーやハンバーグ、揚げ物などの食事にポテトチップスや炭酸飲料などのおやつを毎日のように食べ続け、家の中で寝転がって漫画やゲーム機で遊び、身体を動かさない、塾通いと遅い時間の食事……、どれも原因として考えられます。
 昔のように、暗くなるまで戸外で走り廻って遊び、「夕焼け小焼け」に載せた校内放送が流れるのを聞きながら家に帰り、6時ごろから家族そろって食卓を囲み、焼き魚に煮物、味噌汁、納豆など、昔ながらの伝統的な日本食を食べ、夜は早い時間に就寝するような生活ができれば、おそらくこういった子供達は減ることでしょう。
 内臓にたまった脂肪を減らす薬は今のところなく、手術で肝臓の脂肪を取り除くこともできません。ここまででなくても、お母さんやお父さんが、食生活を含めたライフスタイルを改善し、お子さんと一緒に努力することが何よりの薬だと思います。
 またそのような生活をすることが、お子さんだけではなく、そのご家庭の皆さんが、将来、糖尿病や脳梗塞、心筋梗塞などの重い病気にかかることの予防につながります。


子供達の問に急拡大する2型糖尿病。
食生活や生活の改善は家族そろって。


 次に、子供の耐糖能の異常(糖尿病) について少し説明したいと思います。
 糖尿病には1型と2型があります。これまで子供の糖尿病と言えば、インスリンを出す細胞が壊れてしまう自己免疫が原因で起こる1型がほとんどでした。それに対して、2型糖尿病は生活習慣病であり、お腹の脂肪が気になるメタボ年齢(中年)で発症するものと思われていました。
 ところが、最近はこの2型糖尿病が急速に子供達の問に拡がりつつあります。小学生の糖尿病は、この20年間で10倍に増えたと言われています。そして思春期年齢では、2型が1型よりも多いというデータがあります。本来は中高年になると出てくる病気が、肥満のために若くして出てきてしまっているのです。
 特徴は、肥満度が強いことと、まったくと言ってよいほど自覚症状がないことです。学校検尿などで見つかることが多いのです。しかしせっかく見つかっても、きちんと医療機関を受診して治療しなければ、知らない間に合併症が進行し、視力や腎機能が落ちるところまで進んでいたというケースもあります。お母さんやお父さんが糖尿病であれば、とくにそのお子さんは注意が必要です。
 私の次男は、昨春、大学受験でした。東大を受験した同級生(18歳)が、入試の後に行なわれた寮に入るための健康診断をしたところ、血液検査で血糖値400の数値が出、その後の検査で2型糖尿病に罹(かか)っていることが分かりました。
 入試の時に、ホテルから大学までの7分の緩やかな坂道が、やたらと長く辛く感じたそうです。おそらくあの時にはすでに糖尿病になっており、そのせいだったと分かったのは、その検査の結果が出たずっと後のことでした。
 彼は、高校では、サッカーやテニスも普通にこなす元気な男子学生でした。入学後、寮ではなくて、アパートでも借りて下宿生活をスタートしていたら、自分の病気を知ることもなく、大変なことになっていたかもしれません。
 このように、気づかずして糖尿病になる例もある現代です。若者にはとくに、メタボと呼ばれる肥満にならないように気をつけ、良い食生活、運動の習慣を身につけるよう、家族そろって普段から努力してもらえたらと思います。
 子供は将来が長いゆえに、最初がとても重要です。親御さんはもちろんのこと、本人が、このメタボリックシンドロームの怖さや治療の大切さをよく知ることです。
 さらに子供の保護者としては、目に見える生活改善の目標を示し、体重計や腹囲を測るためのメジャーなどを使用して、子供自身の関心を引き出し、自己管理できるように導いてください。そして、おかしいと思えば、医療機関を受診するように心がけましょう。