診療室から Vol.14 ブラキシズム
人間が噛む時の力は60kgにも 婆勢を正して顎関節に優しさを
精神面の安定に役立つブラキシズムも
過度の行為は肩こり、偏頭痛の原因に。


 皆さんは、ブラキシズムという言葉を聞いたことがありますか? ブラキシズムとは、歯軋(はぎし)りや噛(か)みしめなど歯の食い縛りのことを言いますが、私達の日常では普通に行なわれている行動動作です。
 歯軋りは睡眠中に起こります。
 「ギリギリ」と音を立てることで知られていますが、音を立てずに歯軋りをすることもあり、ブラキシズムによる諸症状の悪化を招いていることがあります。
 噛みしめは、日中や夜間に無意識のうちに行なっています。例えば、勉強や仕事に夢中になっている時、スポーツや力仕事をしている時に歯を食い縛る。これは日常的に行なわれる生理的行動で、苦しい時や夢中になっている時、頑張っている時など、気づかないうちに行なつています。また、歯軋りをすることで、ストレスを発散していることもあります。
 このように、ブラキシズムはストレス発散や不安の除去など、精神面の安定に役立ち、運動時や力仕事、平衡バランスには欠かせない行為ですが、過度のブラキシズムは、歯や歯周組織に大きなダメージをあたえるだけでなく、肩こりや偏頭痛といった症状に関係していることもあります。ブラキシズムによる影響は次の三つに大別されます。
【歯の変化】
 歯が磨(す)り減る、知覚過敏(歯がしみる)が起こる、かぶせ物や詰め物がよくはずれるなどの現象が出ます。とくに更年期を迎え、口の中が乾き始めた人が習慣的にブラキシズムを行なうと歯が折れる、割れるリスクは高く、最悪の場合、歯を抜くことになります。また健康な歯の場合でも、ブラキシズムだけでこれだけの症状が出る可能性があります。さらに虫歯の人がブラキシズムを行なうと、もっと最悪な結果になります。
【歯周組織(歯ぐき)の変化】
 歯周病にかかっている歯にブラキシズムによる大きな力が加わると、急激に顎(あご)の骨の吸収(歯槽膿漏(しそうのうろう)が早く進む)が進み、歯がグラグラになり、抜歯をしなければなりません。また場合によっては、自然脱落してしまうこともあります。
【他への影響】
 ブラキシズムによる異常な噛みしめを習慣的に続けていると、顎の関節にもとても大きな負担をかけてしまいます。その結果、口が開きにくくなる、口を動かす時に顎の関節の音がする、痛むという顎関節症(がくかんせつしょう)が起こりやすくなります。また、顎が外れやすくなる(これは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が同時に起こると発生頻度は高くなる)、顔面の筋肉痛や三叉(さんさ)神経痛、顔面の変形が起こることもあります。


自分では気づかないブラキシズムだが、
歯軋りを指摘されたら素直に認めよう。


 日中に歯の食い縛りのある人は、意識して時問や回数を減らすことから取り組みを。
 私達人間は、歯を食い縛ることにより、口腔(こうくう)周囲筋だけでなく、首や肩、腕の筋肉が緊張し、肩こりや偏頭痛の大きな原因になります。もちろん、顎の骨も変形しやすくなります。
 ブラキシズムは無意識に行なってしまうもので、自分で気づくことが困難です。ましてや、眠っている時のことまでは分かりません。家族や友人から歯軋りを指摘されたら素直に認めましょう。ブラキシズムを見つける目安としては、次のようなことが挙げられます。
 @集中している時、緊張している時に無意識に食い縛っている。A頬(ほお)の粘膜の内側や舌の外側の縁に歯の痕(あと)がついている。B歯が磨り減っている。C歯の上のほうが黄色くなっている。D事故以外で歯が折れたり、割れたりしたことがある。E肩こりがひどい。F偏頭痛が起こりやすい。G歯ぐきに硬いデコボコがある。H歯科医院で「歯軋りしていませんか?」と一度でも質問されたことがある。以上の項目で複数該当する人は、ブラキシズムを行なっていると思われます。
 だいたいの歯科医師や歯科衛生士は、口の中を見るだけで食い縛りをしているかどうか判断できます。「歯軋りしていませんか?」の問いに、している人に限って、「していないと思います」という答えが返ってきます。それだけ、自覚症状がないものなのです。


日中に歯の食い縛りがある人は、意識して
時間や回数を減らすことから取り組みを。


 では、ブラキシズムへの対応はどのようにしたらよいのでしょう? ストレスをなくし、リラックスすることが何よりも一番です。しかしながら、ブラキシズムが習慣になっている人は、その悪い習慣を改善しなければいけません。
 まずは、歯や歯周組織を守るために、ナイトガードやマウスピースと呼ばれる保護装置を装着します。これは必要な時、就寝時、スポーツをする時、食い縛る仕事の時など、あらかじめ歯や歯ぐきに負担がかかることが分かっている時に使用し、歯や歯の周りの組織(歯ぐきや顎の骨)を保護します。日中に食い縛りがある人は、自覚し、意識して食い縛る時間や回数を減らすよう努めて下さい。
 その他、日常で心がけることは、食事は左右の歯でバランスよく咬(か)み、片方だけに負担がかからないようにします。治療が必要な歯はきちんと治し、歯周病を悪化させないよう定期健診を受け、プラークコントロール(歯垢の除去)をしっかりすることです。     
 また、頬杖(ほおづえ)をつく、肘(ひじ)をつくことも噛み合わせのずれを生じる原因となります、疲れた時など、よく、椅子(いす)に座ったまま机にうつ伏せになって眠ってしまう人がいるかと思いますが、これも顎や顎関節にとっては大きな負担となってしまいます。注意しましょう。
 ブラキシズムを予防するには、ストレスの少ない生活を心がけることです。規則正しい生活、適度な運動が基本です。そして、顎の関節にストレスをかけないことがとても重要です。しかし、「顎にストレスをかけない」と言われてもピンとこないと思います。
 顎は食べる、喋(しゃべ)る、あくびをする、力仕事や夢中になっている時に食い縛る。眠っている時でさえ寝言を言う、歯軋りをするなど常に忙しく動いています。
 ということは、顎の関節はいつも一定の位置でのんびりすることなく動いていたり、本来あるべき位置ではない所で固まっていることが多いため、ストレスを感じています。ですから、顎関節にも時々リラックスして休ませてあげる必要があります。
 ではどうしたら、顎関節が安静な位置に戻ることができるのでしょうか。一番簡単な方法は、背筋を伸ばして、肩をやや後方に引く(いわゆる胸を張る) のです。そうすると、自然に顎が引き、顎関節も安静な位置に戻ります。この時、歯と歯の間にはわずかに一定の隙間(すきま)ができ、食い縛ってはいないはずです。