診療室から Vol.13 結核
結核は過去の病にあらず 今なお罹患者は2万人以上
先進国中、日本の罹患率は他国の2、3倍。
中でも気になるのは、若者の高い罹患率。


 今日、多くの日本人は、結核は国内においてすでに過去の病気と見ていると思います。しかし、2007年度、世界中では930万人が結核に罹(かか)り、中でも、HIV(エイズ)陰性の結核死亡が130万人、HIV陽性の結核死亡が45万6000人と報告されています。また、同年の日本での結核患者数は約2万5000人で、約2200人が亡くなっています。
 抗菌薬が開発されるまでは、年間約10万人余りの人が死亡し、安静のみが結核の治療法とされていた不治の病でした。その頃と比べると確かに激減していますが、いまだに2万人以上の人が罹患(りかん)し、さらに亡くなっているということは、過去の病気と片付けられません。
 地域別に見ると、アフリカのサハラ砂漠以南が、HIV感染と関連して一番多くの罹患者がいます。次いで東南アジア、ロシア、中国、インドですが、日本は、先進国の中では他の2、3倍程度の高い罹患率です。
 原因の一つは、戦前から昭和20年頃、低栄養、劣悪環境の下に結核が蔓延(まんえん)しました。現在、その頃罹った人が高齢となり、免疫力が低下して発病したためです。しかし、高齢者だけではなく、若者の罹患率が高いのも気になります。2007年は、20〜30代の若者約4200人が発症しています。また昨年は、大阪で若者の集団感染が話題になりました。
 結核は、咳(せき)やくしやみなどによる飛沫核(ひまつかく)の暴露により感染しますが、免疫機能がしっかりしていると発病まで至らないことがほとんどです。
 そこで予防として大事なことの一つが食生活です。毎日コンビニの弁当やジャンクフードなどで済ませていると、栄養のバランスがとれず、低免疫状態に知らずに陥っていることがあります。さらに若い人は無理がきくので、睡眠不足なども加わっている可能性もあります。


100年来のツベルクリン検査に代わり、
近年は高精度のクオンティフェロン検査が。


 さて、結核に罹るとどのような症状が現れるのでしょう。次のような場合が疑われます。咳が2〜3週間続く、全身がだるい、体重が減った、寝汗をよくかく、午後から微熱が出る、さらに一日中高熱が続く、痰(たん)に血が混じるなどです。
 高齢者、糖尿病、免疫抑制治療中、悪性腫瘍(しゅよう)、透析患者、胃切除後、あるいは結核の人と接触したという人でこのような症状を感じた場合は、結核の可能性を考え、直ちに「マスクをして」医療機関を受診しましょう。
 検査は、胸部]線撮影のほか採血にて炎症所見有無を調べることもあります。結核が疑われれば痰の検査や、CT撮影などを行ないます。痰の検査は最低2回、可能なら3回行ないます。もし痰の検査が陰性でも、疑わしい場合には胃液を採取して検査することもあります。
 従来より、結核の診断としては、約100年にわたりツベルクリン反応検査が用いられてきました。しかし最近では、より精度が高く、かつBCG接種の影響を受けないため、クオンティフェロン検査という採血検査が注目されています。感染すると8〜10週間後に初めて陽性となりますが、特に、結核感染者と接触した人の判定にしばしばこの検査が使われます。
 治療は、基本的には結核専門病院にて行なわれます。標準的治療が確立されており、複数の薬を6カ月から9カ月くらい服用することになります。中には肺切除することもあります。妊娠中の女性に対しては、当然のことながら、胎児に対する安全性が危供される薬を除いた治療法が確立されています。
 中でもINHという薬はよく使用されますが、稀(まれ)に食事の影響を受けることがあります。チーズなどチラミンを多く含む食事の摂取により、血圧上昇や動悸(どうき)が認められることです。また、マグロなどヒスチジンを多く含む食事の摂取により、頭痛、紅班、嘔吐(おうと)などが現れることがありますので注意が必要です。
 先述したHIV感染は、日本国内においても増加しています。結核菌に感染しても、発病するとは限りませんが、HIV非感染者で結核感染者の結核発病率は、生涯に5〜10%であるのに対し、HIV感染者の場合は、年間5〜10%といわれています。ただHIV陽性の治療も現在は積極的に行なわれ、治療している患者は結核の発病率が激減するという報告もあります。


感染源の飛沫核は空気中にしばらく浮遊。
その可能性のある部屋に入る時は要注意。


 医療費の問題に少し触れます。元来、結核に関する法律は「結核予防法」でしたが、平成19年3月31日廃止され、同年4月1日から「感染症法」の中に含まれることとなりました。
 感染症法による公費負担制度は次の2種類があります。
 @一般患者に対する公費負担=医療を受けるために必要な費用の95%を各種医療保険及び介護保険の公費で負担する。
 A入院勧告患者に対しては、必要な費用の全額(一部を除く)を公費負担=世帯員の総所得税額が150万円を越える場合は、月額2万円を上限として一部負担する。
 また、多剤耐性結核というのが問題になっています。結核の治療は複数の薬を使用するのが基本ですが、一つの薬が合わないということは以前から見られた現象です。しかし昨今、多数の薬剤に耐性ができ、治療に難渋する例が増えてきています。
 その大きな原因の一つは、症状がなくなると治ったと思い込み、患者が薬の服用を止めてしまうため、本人が治らないのみならず、耐性菌を作ってしまうことになるということが挙げられています。こういったことを防ぐために、医療従事者の目の前で患者が服むのを確認する「DOTS」-directly Observed treatment Short course- を1994年にWHOが提唱し、世界に広まっています。
 感染の源は患者の咳、くしゃみなどの飛沫核を吸引することです。そこで注意すべきことは、飛沫核は、本人がその場から立ち去ってもしばらく浮遊していることがあるので、そういう部屋は要注意です。
 もちろんマスクは必携で、結核が判明したら「N95」という特殊なマスクをつけます。万が一感染しても、発症するのは数パーセントであり、やはり免疫力が肝要です。
 最後に、結核に限りませんが、まず感染しにくい身体を作ることが一番です。具体的には野菜を主体にした食生活、良好な睡眠を取り、免疫力の維持向上に心がけることが何よりです。
 その点、喫煙は免疫力低下、肺機能低下などの親玉であり、もってのほかと言えます。結核はもちろんですが、咳が続く喫煙者は、何はともあれ、禁煙から治療が始まることを忘れてはなりません。