診療室から Vol.11 がんのお話
がんは早期の発見と治療でもはや不治の疾患ではない
日々進歩を続けているがんの治療法
特に抗がん剤は十数年で大きな変化が


 肺がん、胃がん、乳がん、肝がん……と、毎日の生活の中で色々ながんの話を耳にします。
新聞、雑誌、テレビジョンなどでも度々特集が組まれています。
 できればかかりたくない病気の一つですが、昭和56年以降、がんは日本人の死因の第1位となり、その数は増加を続けています。今では3人に1人ががんで亡くなっている状況で、一生の間には、自分、もしくは家族などの身近な人が、必ずどこかでがんに関(かか)わると言っても過言ではありません。
 そこで今回は、ある日突然分かってしまうこのがんについて記してみたいと思います。
 今日、がんは必ずしも命を落とす疾患ではありません。「早期発見」「早期治療」という言葉がありますが、例えば胃がんや大腸がんは、病変が消化管の粘膜にとどまっているようなものであれば、内視鏡を使って粘膜を剥(は)ぎ取る治療でがんを取り去ることができます。
 また、肺がん、子宮がん、乳がん、前立腺(ぜんりつせん)がんなどは、早く見つかれば、手術で病変を取り除いたり、放射線照射で完全に治療できることもあります。
 しかし、臓器によっては早い段階で発見するのが難しいこともあります。また、目に見えない形で、血液やリンパの流れに沿って身体のあちこちに飛んでいることもあります。その時は手術など単独の治療では手に負えないため、色々と組み合わせた治療を行ないます。
 そもそもがんの積極的な治療には、手術療法のほか、放射線療法、抗がん剤を使う化学療法の大きく三つがあげられます。どの治療法も日々進歩を続けていますが、ことに抗がん剤の治療は、この十数年で大きく状況が変わってきています。
 かつて抗がん剤は、ごく限られたがんに一時的に効果のあるもので、強い副作用に比べて割に合わないものでした。
 しかし現在は、薬剤の進歩に加え、その組み合わせ、投与期間など様々な方法が検討され、がんの病期(ステージ)や他の臓器の状況など、病状に合わせた有効な化学療法が選択できるようになつてきています。
 手術後、がんの再発を抑える意味での補助療法として使われることもあります。また、再発してしまったがんの手術ができない場合、それ以上の進行を抑える(がんと共存しながら、これまでと同じ生活を送る)意味合いで効果のある化学療法もあります。
 また化学療法はこれまでは、主に入院して行なう治療法でしたが、投与方法の工夫などにより、自宅での生活を続けながら、通院での投与も可能になってきています(外来化学療法)。
 抗がん剤の副作用についても、予測される副作用に対しての対策を行なうことができ、また吐き気などに対しても、非常に有効な薬剤もあります。


がんは手術などの積極的な治療法の他に
心身の苦痛を和らげる目的の緩和治療が。


 がんの治療について、もうひとつ別の観点から、「抗がん治療」と「緩和治療」という分け方があります。
 がんそのものに対して手術、放射線、化学療法を行なう抗がん治療に対して、緩和治療は、文字通り痛みなどをコントロールし和らげる治療です。がんと言われて心を痛めない人はありません。精神的、社会的な痛みも含めてケアしていくという治療方法です。
 これまでの緩和治療は、積極的な抗がん治療が終わった後に行なう、最後の治療というイメージがありました。一所懸命治療をしてきたのに、「あなたにはもうこれ以上抗がん剤は効きません」という、第二の告知とも言うべきこの宣告は、とてもつら辛いものです。そこで治療を打ち切られたり、場合によっては主治医の先生も変わってしまったり、大切な時期にとても大きな苦痛と言えます。
 がんによる痛みは、心の痛みも含めると、がんと診断を受けた時点から始まっていると言っても過言ではありません。ですから、最初から少しずつ緩和治療という概念を取り入れることで、より心強く立ち向かえるかもしれないのです。「苦痛のない状態」を目指すことが緩和治療の目的です。
 がんを患っている方の苦痛として、やはり身体の痛みは何より辛いものです。「がん性疼痛(とうつう)」と言い、原因は様々です。原因に合わせた治療が望ましいのですが、有効に使われる痛みの治療薬に、医療用麻薬(オピオイド) があげられます。
 麻薬というと、犯罪や依存症になるなど、悪いイメージが先行しがちです。しかし医療用の麻薬は適正に投与されれば、とても有効で安全な治療薬です。
 現在日本で使われているオピオイドの消費量は、最も多いアメリカの1/50、イギリスと比べても1/7です。適応や人種などの違いを考慮しても、日本での消費量は少なく、がんによる痛みが十分に和らげられていないことが推測されます。
 実際に使われているオピオイドには、注射剤以外に、内服薬(錠剤や液体)、貼付薬(皮膚から吸収されるシールのようなもの)などがあり、生活スタイルや病状によって選択できます。
 再発してしまったがんや、完全に取り除けないがん。これらと闘いながら過ごす時間は、限られた、とても貴重な時間です。ベッドの上で、誤ったイメージにとらわれ「そんな薬は使いたくない」と痛みを必死にこらえているよりは、適切な処方を受けることで、大切な時間に、少しでも、いつもと変わらぬ生活を送ることができるのです。


がんを遠ざける秘策は定期検診の他に
因子となるタバコ、動物性食品の抑制が。


 がん患者はこれからもどんどん増えていきます。積極的な治療の、その時々に関わる縦割りの医療だけでなく、緩和治療を含めて、治療の初めから全体を見渡す役割をはたす身近な医療者がもっと必要となってくるかもしれません。高齢がん患者も増加してきており、がんの治療にあたって、これからますます柔軟な対応や、色々な治療法が求められていくと思われます。
 できれば、やはり早い段階でがんを発見することが望ましく、そのためには、定期的に必要な検査を受けることが大切です。また、できるだけがんの原因を遠ざけるよう、毎日の生活で注意を払っていくことも大切です。
 日常生活で発がんに関わる大きな因子としてあげられるのが、喫煙と食生活です。喫煙は肺がんだけでなく、多くの臓器の発がんに大きく関わっています。禁煙は、自分はもちろん、愛する家族など周囲の人達をがんから守ることにもつながります。
 さらに食生活も重要です。必要な野菜や果物を摂ること、塩分制限、動物性脂肪の摂(と)りすぎを控えることなども、発がん抑制に効果があるとされています。がんに負けない日常生活を送っていきたいものです。