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特集:「看護」が変わる

看護が注目される時代の流れ
少子高齢社会で看取る人の存在がクローズアップされます。

 日本は少子高齢化が進み、看護師の需要と役割に大きな影響を与えています。少子化により看護学生の確保が困難な状況が発生しており、高い離職率と併せて、慢性的な人材不足となっています。また、高齢化による多死時代の到来で、看取りなど在宅看護の需要が大きくなっています。


看護師の役割が時代の中で増しています

 現在わが国では75歳以上人口が加速度的に増え続けており、1980年に366万人であったのが、2005年には1164万人、2030年予測では2266万人となっています。これに対し、18歳人口は1980年には159万人であったのが、2005年には136万人と23万人減少し、推計では2030年に89万人とさらに47万人減少するとの予測が出ています(総務省統計局国政調査結果、国立社会保障人口問題研究所:日本の将来推計人口より)。  
 今後の更なる高齢化により、長く病を抱えながら生活する人々が増加することが考えられます。これに伴い、医療においても、病気を治すことに主眼を置く「治す医療」に加えて、患者とその家族を対象とし、生活を主眼に置きながら支援して行く「治し支える医療」が求められるようになってきています。  
 看護職の課題の中には、量的な人材確保により解消できる問題もありますが、併せて重要なことが看護師の質です。これには技術的な側面と看護師自体の人間性に関わる資質が考えられます。  
 技術的な側面は看護教育の中で十分学ぶことができます。しかし、看護師自身の人間性に関わることは、座学や実習だけで簡単に学べるものではありません。  
 では、どのような資質が必要なのでしょうか。看護にはいろいろな領域や分野がありますが、最近需要が増えている訪問看護を例に挙げて見て行きます。  
 現在、国の政策として、医療費抑制のため病院での長期入院を止めさせ、早期に退院させるような取り組みがなされています。在院日数の短縮や「治し支える医療」の進展等により、医療に依存しなければならない患者の医療・看護提供の場が多様化しています。今後の超高齢化社会を考えると、自宅での療養生活を万全にサポートできる体制が必要であることは言うまでもありません。  
 このような社会環境において、今後役割が大きくなるのが訪問看護師です。  
 訪問看護師とは、各家庭を訪問し、患者のケアを行ない、患者とその家族に保健指導を行う看護師のことで、主な就業先は訪問看護ステーション・保健所・市町村保健センターなどです。しかし、看護職就業者の中で、訪問看護師の割合は非常に少ないのが現状です。  
 訪問看護師は末期のがんや難病など、重い病を抱えながらも退院して自宅で暮らしたいという人々を支えることもあります。医師や看護師が24時間356日常勤する病院とは異なり、容態が急変した時の対応や、家族の介護ストレスなどの困難が伴います。訪問看護師は患者とその家族を支えるために、さまざまな手立てを試みます。病院勤務の看護師と同様、医師の指示の下、看護を行っていきますが、現実は訪問看護師の判断で看護を行なうことも多く、訪問看護は病院のように医療機器が充実しているわけではなく、医師との連絡もとりにくいため高度な専門知識と経験が求められています。


在宅医療で看護師が担う 看護の質が高くなっています  

 では、もう少し具体的に病院での医療と在宅医療との違いについて抜き出してみます。
 ●単独でケアする責任  
 訪問看護師が1人で訪問して看護します。そのため、より一層の責任が伴い、高い倫理観を持たなければなりません。また、病院のような緊急体制、医療器具等が揃ってないこともありますので、技術の向上、質の確保が重要となります。
 ●生活の場での看護  
 病院では比較的に患者個人の生活です。在宅では患者だけではなく患者も含めた家族の生活があります。そのため、家族全体の生活サイクルの中でのケアという点に配慮する必要があります。
 ●チーム医療でのケア  
 病院内ではほぼ限られた就業者との連携となります。在宅医療の場合には、主治医との良好な関係を保ちつつ、看護師、理学療法士、作業療法士、歯科医、医療ソーシャルワーカー、支援センター、ホームヘルパー、ボランティアなどが互いに補完し合うことにより円滑なケアが確立されます。その中心的存在が訪問看護師です。 ●看護技術以外で求められる能力  
 施設内医療では看護技術の提供が中心となりますが、在宅医療では管理や調整、判断力、親身になった手当てや相談を受けるなど、多角的な思考と行動が求められるのです。  
 このように訪問看護という分野は、今までの施設内医療で医者の指示の元、看護技術を提供する、限られた医療従事者との関係だけで済むことはありません。  
 在宅医療を行なう上で看護師に求められる能力や資質として、プラスアルファの高い資質が求められています。患者や医師と円滑な連携を保つには、次のようなことが必要だという意見があります。
 「患者のニーズに対応していること」(洞察力、企画力)
 「チーム医療の推進のために、チームのメンバーから信頼されるとともに、リスクに関して早く予測できて早めにドクターに報告するナースが、ドクターから信頼される。それには、『予測する力』をつけないといけない」(予見力)
 「在宅医療では、チーム医療にかかわる調整の能力が問われている。看護基礎教育でも、調整の能力を養ってもらいたい」(調整力、指導力)  
 これ等の資質を十分に発揮する前提として、医師から信頼されなければなりません。安心して治療を任せられる看護師となることです。これは医者、看護師、患者等のお互いが、社会的責任に基づいた信頼なくしては成り立ちません。


豊かな人間性を育む土壌が 家庭や社会にあるはずです  

 看護師として、優しい心根を持ち、感謝の気持が具わっていることは絶対条件です。温かい家庭で育ち、宗教的情操教育がなされ、成長し育つ過程において自然と身に具わった人格が必要です。これこそまさに豊かな人間性の涵養と言えるでしょう。 「氏より育ち」という言葉があるように、自身の価値観や人間形成は今まで育ってきた環境、家庭での躾に大きく左右されます。それらが接遇能力に影響を及ぼすことは言うまでもありません。  看護師には、豊かな人間性や包容力が求められます。これらの資質・能力を具えるためには、看護実践の魅力に早期から触れることが重要です。子供の頃から高齢者や障害者等と接する機会をもつ等、人間の尊厳を重視する心が育まれる体験をすることです。これは幼少時からの成長段階に応じて行われていくことが望ましいでしょう。  
 医療従事者の中で、看護師の数は一番多いのです。多数派を占める看護師の質が高くなれば、日本の医療の質は格段に上がるはずです。そして、看護師は患者と接する時間が、医師よりもずっと長いのです。だからこそ、患者と対座するのではなく、隣に座して医療を提供する存在であり、常に患者の立場に立ち、患者を支え、寄り添うことが求められる存在です。
 ある福祉施設で新入職員に対して話された印象的な訓示がありました。「看護するお年寄りや患者への接し方は、自分の身内と思って接して下さい。自分の親や子供に対する時に、邪険に扱う人はいないはずです。目配り、心配り等気遣いながら、喜ぶことや嬉しがることを想像しながら優しく接することでしょう。その精神を相手にも振り向けて下さい」という内容でした。  
 このような感性が育める家庭、人間性の高揚を実現できる社会に変われば、看護で用いる基本的な資質は多くの人が身に具えることができるでしょう。  
 その後、大学の教養教育等で経験を積むことにより、洞察力や予見力、調整力などの力が身に付き、高度な医療福祉に貢献できる人材となれるのではないでしょうか。


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